◆大豆の主要なイソフラボンであるゲニステインの摂取が廃用性筋萎縮の症状を緩和することをラット、マウスにおいて明らかにしました。
◆ゲニステインによる筋萎縮の緩和作用にはエストロゲン受容体(ER)(注1)が関与していることを見出しました。
東京大学総括プロジェクト機構 総括寄付講座「食と生命」の加藤久典特任教授らのグループは、大豆に含まれるイソフラボンの一種であるゲニステインを筋萎縮マウスに摂取させると廃用性筋萎縮を抑制することを明らかにしました。また、ゲニステインを摂取しているラット骨格筋における網羅的な遺伝子発現解析の結果から、ERの標的遺伝子が多数変動していることを見出し、この筋萎縮緩和作用にエストロゲン受容体が関与することを薬理学的な実験にて明らかにしました。
本研究の成果はゲニステインの日常的な摂取が運動不足や骨折等による筋萎縮の進行を遅らせるものと期待されます。
図1 ゲニステインによる筋萎縮予防効果の作用機構
ゲニステインはエストロゲン受容体αに作用することで筋萎縮を予防します。これにはFOXO1の増加抑制が関与していることが示唆されました。(拡大画像↗)
ゲニステインは大豆に比較的多く含まれるイソフラボンの一種であり、その主な生理作用の一つとしてERに作用することが報告されていました。一方、動物実験や閉経後の女性を対象に行われた研究では、女性ホルモン(エストロゲン)の補充は筋量の維持に効果的であるといった報告がされていました。そこで東京大学総括プロジェクト機構 総括寄付講座「食と生命」の加藤久典特任教授らのグループは、ゲニステインの筋萎縮予防効果について、ラット・マウスを用いて評価を行いました。
最初にゲニステイン摂取により筋萎縮が予防できるかラットを用いて実験を行いました。ラットにゲニステインを含む食餌または含まない食餌を摂取させた後、坐骨神経の切除により筋肉を萎縮させました。萎縮10日後のヒラメ筋の重量を測定すると、ゲニステインを摂取したラットのヒラメ筋ではゲニステインを摂取していないものに比べ萎縮の程度が緩和されていました。また、筋萎縮に関わるFOXO1(注2)のタンパク質量は坐骨神経切除により増加し、その増加がゲニステイン摂取により抑制されていました。
さらに、ゲニステインによる筋萎縮緩和効果の作用メカニズムを探るため、DNAマイクロアレイを用いて網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ、萎縮している筋肉ではゲニステインを摂取させるとエストロゲン受容体(ER)の標的遺伝子が多数変動していることが明らかとなりました。この結果はゲニステインの摂取が筋肉でのERに大きな影響を与えていることを示唆しています。
そこで次に、ゲニステイン摂取による筋萎縮緩和作用にERが関与しているのかを調べました。ラットの実験と同様にマウスにゲニステインを摂取させたところヒラメ筋萎縮緩和効果が認められましたが、ER拮抗薬(ICI 182, 780)の投与下ではゲニステイン摂取による筋萎縮緩和効果は認められませんでした。また、ERにはERαとERβの2種類の主要なサブタイプが存在することが知られています。そこで筋萎縮緩和効果に関わるERのサブタイプを明らかにするため、ERαとERβのアゴニスト(PPTとDPN)の投与が筋萎縮に及ぼす影響について調べました。その結果、ERαアゴニストの投与で筋萎縮緩和作用が認められ、一方ERβアゴニストの投与では認められませんでした。
以上のことから、ゲニステイン摂取によるヒラメ筋萎縮緩和効果にはERが関与しており、ERαが重要な役割を果たしていることが考えられました(図)。ゲニステインは大豆に含まれるイソフラボンの一種であり、筋萎縮の予防に向けた食品成分の一つとして大豆などのゲニステインを多く含む食品の積極的な摂取が期待されます。
東京大学総括プロジェクト機構 総括寄付講座「食と生命」
特任教授 加藤 久典
Tel:03-5841-1607
Fax:03-5841-1607
研究室URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/food/