III型ポリケタイド合成酵素（PKS）は、約400アミノ酸のホモダイマーであり、芳香族ポリケタイドの合成を触媒する。これまでIII型 PKSは植物及び原核微生物にのみ見出されており、これらの生物種に特異なPKSであると信じられていた。ところが、最近のゲノムプロジェクトにより、III型 PKSはNeurospora、Aspergillusなどの糸状菌にも広く分布していることが明らかとなった。我々は、糸状菌由来のIII型PKSの機能に興味を持ち、アカパンカビN. crassaのIII型 PKS様遺伝子、NCU04801.1の機能解析を行った。
　 III型PKSは、その活性中心周辺のアミノ酸残基の微妙な差異により基質及び反応特異性が制御されているため、アミノ酸配列からその機能を推定することは不可能である。我々は、大腸菌で組換え蛋白を調製し、その触媒機能の解明を行った。その結果、本酵素は、1）Stearoyl-CoAをスターター基質とし、2）malonyl-CoAを4分子縮合し、3）生じたペンタケタイドを2,4-dihydroxy-6-(2’-oxononadecyl)-benzoic acidに閉環する酵素であることが判明したため、本酵素を2-oxoalkylresorcylic acid synthase（ORAS）と命名した。III型PKSによるペンタケタイドのフェノール性脂質の生成の報告例は無く、ORASはフェノール性脂質の合成を触媒する新規なIII型PKSである。

III型ポリケタイド合成酵素（PKS）は、われわれが放線菌に見出す[A new pathway for polyketide synthesis in microorganisms.　N. Funa, Y. Ohnishi, I. Fujii, M. Shibuya, Y. Ebizuka and S. Horinouchi. Nature 400, 897-899 (1999)]までは、植物のフラボノイド群化合物の生合成に特有な酵素と考えられていた。その後の研究により、III型PKSは、多くの細菌、真核微生物に分布することが明らかになり、この一群の酵素の反応機構のバラエテイーも明らかになりつつある。最近、醗酵学研究室では、窒素固定細菌Azotobacter vinelandii の休眠細胞であるシスト膜の構成成分であるフェノール性長鎖脂質は、III 型PKSによって生産され、かつこの脂質はシスト形成に必須であることを明らかにした[Phenolic lipid synthesis by type III polyketide synthases is essential for cyst formation in Azotobacter vinelandii.　N. Funa, H. Ozawa, A. Hirata and S. Horinouchi. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 6356-6361 (2006)]。さらに、糸状菌であるNeurospora crassaが有するIII型PKSも類似のフェノール性長鎖脂質を合成することを明らかにした[Pentaketide resorcylic acid synthesis by type III polyketide synthase from Neurospora crassa. N. Funa, T. Awakawa and S. Horinouchi. J. Biol. Chem. 282, 14476-14481 (2007)]。これらの成果は、微生物、高等生物を含めた生物の生体膜中にあり、これまで未知だったフェノール性長鎖脂質の機能に関する研究の新展開をもたらすと期待できる。

１：　上：窒素固定細菌Azotobacter vinelandiiが作るシスト（包嚢）の切片電顕像。Inと示された層が、フェノール性長鎖脂質を含む。下：III型ポリケタイド合成酵素遺伝子の破壊によって、フェノール性長鎖脂質を生産できなくなった変異株では、もはや正常なシストを形成できない。

２：　微生物のIII型ポリケタイド合成酵素によって生産される種々の生成物。Streptomyces griseusは放線菌、Azotobacter vinelandiiは窒素固定細菌、Neurospora crassaは赤パンカビ。

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Pentaketide Resorcylic Acid Synthesis by Type III Polyketide Synthase from Neurospora crassa
The Journal of Biological Chemistry, Vol. 282, Issue 19, 14476-14481, May 11, 2007
Nobutaka Funa; Takayoshi Awakawa; Sueharu Horinouchi The University of Tokyo
ARTICLE #10.1074/jbc.M701239200