東京大学農学生命科学研究科プレスリリース

2008/1/16

フェノール性脂質の生合成に関わる新規な脂肪酸合成酵素の発見

発表者: 宮永 顕正 (応用生命工学専攻 醗酵学研究室 産学官連携研究員)
鮒 信学 (応用生命工学専攻 醗酵学研究室 助教)
淡川 孝義 (応用生命工学専攻 醗酵学研究室 大学院生)
堀之内 末治 (応用生命工学専攻 醗酵学研究室 教授)

発表概要

 窒素固定細菌Azotobacter vinelandiiの休眠細胞の膜形成に必須であるフェノール性長鎖脂質の生合成に、新規な脂肪酸合成酵素が関わっていることを明らかにした。この脂肪酸合成酵素は、生産物である脂肪酸をポリケタイド合成酵素に直接受け渡すという他の脂肪酸合成酵素とは異なった機能を持っていた。

発表内容

 以前、醗酵学研究室では、窒素固定細菌Azotobacter vinelandiiの休眠細胞の膜形成に必須なフェノール性長鎖脂質の生合成に、ポリケタイド合成酵素 (PKS) が関わっていることを見出していた[N. Funa, H. Ozawa, A. Hirata and S. Horinouchi. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 6356-6361 (2006)]が、詳細な生合成経路は明らかになっていなかった。A. vinelandiiのゲノム上配列において、このPKSの隣に、I型脂肪酸合成酵素 (FAS) であるArsADが存在していた。ArsADは、既知のI型FASとは異なるドメイン構造をとっており、また、生産物である脂肪酸を放出するドメインを持たないことから、新規なI型FASであると考えられた。
  今回、我々はこのArsADの機能解析を行い、フェノール性長鎖脂質の生合成経路の全貌を明らかにした。ArsADは、malonyl-CoAを基質として長鎖脂肪酸を合成し、その後長鎖脂肪酸を放出することなく、そのままPKSに受け渡し、その結果フェノール性長鎖脂質が生成する (図参照)。
  通常、FASにより合成された脂肪酸は、放出され、エネルギー代謝など様々な用途で用いられる。しかし、ArsADは生体膜脂質の合成に特化したFASであるため、このようにPKSに受け渡す機構へと進化したのだろう。このArsADと相同性を持つ遺伝子は他の細菌にも存在しており、このような受け渡しの機構は他にも存在している可能性がある。
  今回の成果により、脂肪酸合成反応、ポリケタイド合成反応において、いくつかの興味深い知見が得られた。

発表雑誌

米国科学アカデミー紀要 (Proceedings of the National Academy of Sciences, USA)
vol. 105, no. 3, pages 871-876, January 22, 2008

問い合わせ先

堀之内 末治
醗酵学研究室のホームページ (http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/hakko/)

用語解説

ポリケタイド合成酵素:アシルCoAなどに何分子かのmalonyl-CoAを縮合することにより、ポリケタイドとよばれる化合物を合成する酵素。多くの場合、生じたポリケトメチレン鎖が環化し、芳香族化合物などが生成される。

脂肪酸合成酵素:acetyl-CoAに何分子かのmalonyl-CoAを縮合することにより、脂肪酸を合成する酵素。反応に必要なドメインが1本または2本のポリペプチド鎖上に集まっているI型と、各ドメインが別々のポリペプチド鎖で存在しているII型に分類される。I型の場合、一般的に、合成した脂肪酸を酵素から切り離して、放出するドメインを持つ。

添付資料

 

フェノール性長鎖脂質の生合成経路。青字で示したのがFAS、赤字で示したのがPKSである。点線内で示すようにFASからPKSへの脂肪酸の受け渡しが起こる。

 

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