東京大学農学生命科学研究科プレスリリース

2009/7/21

 好熱菌のリジン生合成におけるタンパク質によるアミノ基修飾の発見

発表者: 堀江 暁(東京大学生物生産工学研究センター/大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修士課程;現キリンホールディングス)
富田武郎(東京大学生物生産工学研究センター助教)
斎木朝子(東京大学生物生産工学研究センター/大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修士課程;現ヤマハ発動機)
河野英俊(日本原子力研究開発機構)
高ひかり(順天堂大学医学部助教)
峯木礼子(順天堂大学医学部助教)
藤村 務(順天堂大学医学部准教授)
西山千春(順天堂大学医学部准教授)
葛山智久(東京大学生物生産工学研究センター准教授)
西山 真(東京大学生物生産工学研究センター教授)

発表概要

好熱菌[注1]のアミノ酸のリジン生合成において、タンパク質によるアミノ基修飾という新規な機構を発見した。同タンパク質は生合成の各ステップの反応を触媒する各酵素が効率よく認識するためのキャリア(足場)となって機能しており、これはアミノ酸生合成における新たな概念を提示することとなった。本発見は新たなリジン醗酵生産系の構築につながるものと期待される。

発表内容

リジン生合成には、アスパラギン酸を初発物質としてジアミノピメリン酸を経由する経路と2−オキソグルタル酸を初発物質としてαアミノアジピン酸(AAA)を経由する経路の2つが存在する。前者の経路は広く細菌や植物に分布しており、近年需要が非常に増えているリジンの醗酵生産ではCorynebacterium glutamicumという細菌が用いられている。高度好熱菌Thermus thermophilusは、細菌でありながらAAAを経由してリジンを生合成する。T. thermophilusのリジン生合成において、AAAからリジンへの変換は、AAAのアミノ基の修飾保護から始まると考えられるものの、どのような保護機構がはたらいているのか分かっていなかった。東京大学生物生産工学研究センターの西山教授のグループは、順天堂大学医学部、(独)日本原子力研究開発機構との共同研究により、54アミノ酸からなる低分子タンパク質がAAAのアミノ基を修飾保護すること、さらには同タンパク質が各生合成酵素が効率よく認識するためのキャリア(足場)となって機能することを発見した。本成果は、タンパク質が付加するという新たなアミノ基の保護機構だけなく、キャリアタンパク質[注2]を介したアミノ酸生合成の存在を初めて提示したもので、基礎的に重要な意義を持つといえる。また、本発見によって明らかになった好熱菌のリジン生合成系を最適化することにより、新たなリジン醗酵生産系を構築することが可能になるものと期待される。

添付資料


図

発表雑誌

Nature Chemical Biology, Advanced online publication, 7月20日号,
(10.1038/nchembio.198)
タイトル:Discovery of proteinaceous N-modification in lysine biosynthesis of Thermus thermophilus
著者:上記発表者と同一

注意事項

解禁指定はなし。

問い合わせ先

東京大学生物生産工学研究センター 細胞機能工学部門
教授 西山 真
Tel:03-5841-3074
Fax:03-5841-8030
E-mail: umanis@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp

用語解説

[注1] 好熱菌:55°C以上で生育可能な微生物

[注2] キャリアタンパク質:目的のものを効率よく運ぶための輸送タンパク質

 

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