東京大学農学生命科学研究科プレスリリース

2006/3/31

瞬目条件反射学習に伴う小脳深部核における遺伝子発現解析

Molecular Evidence for two-stage learning and partial laterality in eyeblink conditioning of mice  

発表者:小野寺 節 (応用免疫学研究室 教授)

概要

 学習記憶の分子機構を探る目的で、マウスが学習記憶する過程で小脳深部核に生じる遺伝子の発現レベルの変化を追跡した。その結果、小脳皮質及び、深部核において、シグナル伝達、及び膜蛋白系の蛋白の増加が明らかになった。

発表内容・その他

 古典的条件づけである瞬きの条件反射学習(種を越えて保存された運動学習のパラダイムの一つ)の学習および記憶は小脳依存的であり、小脳皮質と小脳深部核が形成するネットワークが重要な役割をすると考えられている。学習記憶の分子機構を探る目的で、マウスが学習記憶する過程で小脳深部核に生じる遺伝子の発現レベルの変化を追跡した。
  マウスの瞬きの条件反射学習では、音刺激(条件刺激)と眼瞼への穏やかな電気刺激(無条件刺激)を組み合わせて提示する訓練を繰り返す事により、音刺激のみで瞬き反応をするようになる。
  この条件付けの過程で、発現の時期と脳内分布のパラメーターに基づいて分類される2遺伝子群が存在する事が明らかとなった。第1群は小脳皮質および深部核を含む広い領域で発現レベルが増加するものであり、そのレベルは学習の初期に最も高く、その後低下するが、学習前よりも高いレベルに留まるものである。第2群は深部核の内、限定された領域選択的に発現レベルが増加するものであり、学習後期になって初めて顕在化するものである。
  これらの結果は、瞬きの条件反射学習に関する二つの仮説を支持している。第一は「瞬きの条件反射学習の記憶痕跡が小脳深部核に形成される」とするものである。第2遺伝子群の存在は、この仮説を支持する分子的証拠と見なす事が出来る。第二の仮説は「二段階学習仮説」である。この仮説によると、まず嫌悪刺激に対する情動的学習がなされ、それが引き続いた運動学習の効率を高めるとするものである。第1遺伝子群にはストレス依存的に発現が誘導されるものが含まれ、第一段階の情動的学習を反映していると考えられる。適度なストレスが神経の可塑性を亢進し、運動学習を早めるのではないかと考えられる。


【論文執筆者】:理化学研究所脳センター行動遺伝学技術開発チーム(朴ジンソン研究員、糸原重美チームリーダー)、脳数理研究チーム(西村信一 元JRA)、東京大学(小野寺 節教授)、南カリフォルニア大学(Richard F. Thompson教授)

【発表雑誌】
Proc. Natl. Acad. Si. USA. 電子ジャーナル、及び本雑誌

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