東京大学農学生命科学研究科プレスリリース

2006/2/14

植物の乾燥耐性機構の解明と乾燥耐性植物の開発に成功

発表者:篠崎 和子 (応用生命化学専攻 教授)
図:活性型AREB1遺伝子を導入した組換え体の乾燥耐性
図:活性型AREB1遺伝子を導入した組換え体の乾燥耐性

概要

東京大学農学生命科学研究科では国際農林水産業研究センター、理化学研究所と共同して、乾燥ストレス耐性を獲得するために働く遺伝子群を制御する転写因子遺伝子の活性化に成功した。この活性化した遺伝子を植物中に導入することで一度に複数の耐性遺伝子を改変し、高レベルの乾燥ストレス耐性植物を開発することに成功した。

解説

地球温暖化等により世界的規模の環境劣化が国際的に問題になっている。また、世界の各地で異常気象が報告され、農業に多大な被 害を及ぼしている。このため、環境劣化や異常気象に耐える植物の開発は農業生産問題からも環境問題からも重要な課題である。東京大学農学生命科学研究科植物分子生理学研究室では、独立行政法人国際農林水産業研究センター、理化学研究所と共同して乾燥や塩害や凍結耐性植物の分子育種に関する研究を実施している。このほど、乾燥ストレス耐性を獲得するために働く遺伝子群を制御するキー遺伝子である転写因子の遺伝子の活性化に成功した。この活性化した遺伝子を植物中に導入することで一度に複数の耐性遺伝子を改変することが可能になり、ストレス耐性作物開発のための強力な有用遺伝子として用いられると期待された。

当研究グループではこれまでに、植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)が植物の乾燥・塩・低温ストレス時に合成され、ABAによって種々の耐性遺伝子が 制御されることで植物が耐性になることを明らかにしてきた。ABAによる耐性遺伝子群の制御においては、AREBと名付けた転写因子遺伝子がキーとなって 働いていることをモデル植物のシロイヌナズナを用いて明らかにしてきたが、AREBは植物の中で合成されてもそのままでは機能を示さない。このほど、 AREBタンパク質の複数箇所のリン酸化による構造変化によって、このタンパク質が活性化することを明らかにした。リン酸化にはABAによって活性化され るSnRK2タイプのタンパク質キナーゼが関与する。実際に構造変化を起こすように改変した活性型のAREBタンパク質を植物中で働かせると、植物は高い レベルの乾燥耐性を示した。マイクロアレイ解析で調べると、この植物中ではたくさんの乾燥ストレス耐性遺伝子が強い働きを示すよう変化していた。

本研究は主に農業・生物系特定産業技術研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」による研究費で行われた。また、本研究によって得られた活性型AREB遺伝子は特許出願中である。

本研究は植物の分子生物学関連雑誌のうち最も評価の高いThe Plant Cellの2005年12月号に掲載されたほか、 米国アカデミー紀要(PNAS)の2006年2月7日号*に掲載された。

* Takashi Furihata, Kyonoshin Maruyama, Yasunari Fujita, Taishi Umezawa, Riichiro Yoshida, Kazuo Shinozaki, and Kazuko Yamaguchi-Shinozaki, "Abscisic acid-dependent multisite phosphorylation regulates the activity of a transcription activator AREB1", Proceedings of the National Academy of Sciences, 103, 6, 1988-1993.

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