東京大学農学生命科学研究科プレスリリース

2007/11/28

「イネにおける抗菌性物質モミラクトン類の生合成酵素遺伝子クラスターの発見」

発表者:生物生産工学研究センター 環境保全工学部門 
教授 山根久和

発表概要

 我々は、イネが生産する抗菌性物質であるモミラクトン類の生合成酵素遺伝子がイネの4番染色体に隣接して存在し、同調的な発現制御を受けることを発見しました。一連の生合成酵素遺伝子がクラスターとして存在することにより、モミラクトン類が効率的に生産されるようになった可能性が考えられます。
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発表内容

 植物においては、病原菌が感染した場合、様々な防御反応が誘導されることが知られています。その中でも、ファイトアレキシンと総称される抗菌性二次代謝産物の生産は,活性酸素や抗菌性タンパク質の生成とともに代表的な防御反応の一つと考えられています。イネにおいては,これまで15種類のファイトアレキシンが単離されていますが,フラボノイドであるサクラネチンを除く14種類はジテルペン型化合物です。私たちは、山形大学との共同研究により、イネにおけるファイトアレキシン生合成酵素遺伝子の単離・機能解析を行い、2種類のジテルペン環化酵素遺伝子(OsCPS4とOsKSL4)、2種のシトクロムP450遺伝子 (CYP99A2/CYP99A3)、1種のデヒドロゲナーゼ遺伝子(AK103462)が4番染色体の168 kbの領域に隣接して存在し,それらがモミラクトン類の生合成に関与していることを明らかにしました(図)。また、上記5種の遺伝子は、イネ培養細胞において、イネの病原菌細胞表層由来の成分であるキチンエリシターで処理した場合、同調的に転写が誘導されることも明らかになっています。こうして、本研究により、イネにおいて、モミラクトン生合成酵素遺伝子がクラスターを形成していることが明らかになりました。
  真核生物ではカビで二次代謝物の生合成遺伝子がクラスターを形成している例がいくつか知られていいますが、高等植物である種の物質の生合成酵素遺伝子がクラスターを形成していることが明らかにされたのは本研究が初めての例と思われます。モミラクトン生合成酵素遺伝子はクラスターとして存在することにより、イネが病原菌に侵入された場合にモミラクトン類を効率的に生産することを可能にしているものと考えられます。今後は当該遺伝子クラスターを構成する遺伝子の同調的な発現調節機構を解明していきたいと考えていますが、このような研究により、イネの病害抵抗性機構の解明だけでなく、有用な植物二次代謝産物生産システムの構築にも大きく貢献できるものと考えています。

図の説明 
イネにおいては、クラスターを形成している一連のモミラクトン生合成酵素遺伝子が転写・翻訳された後、それぞれの作用部位に局在し、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGDP:ジテルペン化合物共通の生合成基質)からモミラクトン類を効率的に生産しているものと考えられる。


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発表雑誌

The Journal of Biological Chemistry, Vol. 282: 34013-34018, November 2007,
Kazuhiro Shimura, Atsushi Okada, et al., “Identification of a biosynthetic gene cluster in rice for momilactones”

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