第二回放射能の農畜水産物等への影響
についての研究報告会

-東日本大震災に関する救援・復興に係る農学生命科学研究科の取組み-

2012年2月18日(土)13:00~17:00

Q&A

【農学部の提言について】(長澤研究科長)
Q. 試験作付は、誰が責任もって栽培管理や収穫物の処分を行うか?
A. 市町村が責任を持つことになる可能性が高い。
Q. 提言に対する農水省の受け止めは?
A. 農水省は提言を十分考慮していただいて、24年度作付方針に反映されたと判断している。
Q. 提言実現のために地元の自治体や団体に働き掛ける予定はあるか
A. ある。実際、福島県内のある自治体と相談している。
Q. 提言の市町村単位は考え直してもよいのでは?(旧市町村単位の方が実利的ではないか)
A. 我々が出した提言は、「市町村単位」での作付制限ではなく、地形等を考慮にいれて作付制限の線引きをすべきである、という内容であった。農林水産省の発表によれば24年度の作付制限は「字」単位で行われている。それでも、検出限界以下の玄米であった水田で作付できないケースが出てきており100%の納得はしていないが、当初の市町村単位での線引きよりは、我々の主張に近くなったと考えている。
【果樹について】(高田助教)
Q. イネや桃でチェルノブイリや大気圏実験の影響はどのくらいか
A. 事故当時(大気圏実験)の空間線量率を考えると、当時は国内でも影響はあったと考えられます。 チェルノブイリ事故が日本の果樹に及ぼす影響は不明です。樹木の分野ではセシウムやストロンチウムの材中の核種の存在部位を調べた試験もありますが、現時点では生産物(果実)そのものに対する厳密な評価は極めて困難です。
(果樹に関してのIAEAの報告はありますが、報告数自体が少ないです。欧州でも原著論文もわずかにありますが、セシウムの塗布試験などが多く事故による影響とは結果を異にするものもあり、単純な比較はできません。)
Q. 田無農場での活動で被ばくなどの問題はあるのか
A. 田無農場の線量は都内の線量と比べて、特に高い低いということはありません。なお、西東京キャンパス生産物のセシウム含量や線量等に関して適宜測定し公表しています。以下のURLを参照願います。
http://www.isas.a.u-tokyo.ac.jp/
http://www.isas.a.u-tokyo.ac.jp/detail/index.php?id=64
【キノコについて】(山田教授)
Q. 事故以前にも汚染されたキノコがあるのはなぜか
A. 1960年代をピークとする大気圏内核実験あるいは1986年のチェルノブイリ事故で放出され日本国内に降下した放射性セシウムによって土壌は汚染されキノコにも吸収されました。チェルノブイリ事故の数年後の国内での調査ではキノコで最大1,250Bq/kg生重、平均37Bq/kg生重のセシウム137が検出されています(このうちの多くは核実験由来と推定されています)。セシウム137の半減期は約30年ですので、現在でも量こそ1/2~1/4に減っていますが当時のセシウム137はまだ環境中に残っていることになります。
  さらに、森林土壌表層は有機物に富んでいることから セシウムは鉱物質に吸着されにくく、キノコの種類によって異なりますがセシウムの多くが森林土壌中に菌糸を張り巡らせたキノコに吸収されます。その後のセシウムの挙動は十分分かっていませんが、有機物とキノコ菌糸の間を循環して長期間セシウムを保持し続けることによって、核実験やチェルノブイリ事故に由来するセシウム137が今もキノコや森林土壌中に残っていると考えられます。
 
参考文献:
吉田聡・村松康行(1986) 菌類と地球環境:地球規模の放射能汚染と菌類. 日本 菌学会報37:25-30
村松康行・吉田聡(1987) キノコと放射性セシウム. Radioisotopes 46:450-463
【魚類】(渡部教授)
Q. 魚以外の食肉中のセシウムの化学形態は?
A. 細胞内のセシウムはカリウムと同様に溶存していることが考えられます。
Q. Csは筋肉に貯まりやすいとあるが心筋にも貯まりやすいのか
A. 心筋は骨格筋(可食部)と同様に筋細胞の集合体ですので、基本的には骨格筋と同様の蓄積を示すと考えられます。
Q. 食品加工工程においてCsの移行を見る時の注意点はあるか
A. 加工工程中に水分含量が変化するので、残存率を正確に算出するためには水分含量を測定するか、乾燥重量当たりのセシウム含量を測定した方がよいと思います。また、セシウム含量の個体差も大きいので、絶対量を測定する場合はロット毎の測定が必要になります。
【その他】(田野井准教授)
Q. 稲作地でのセシウムは134or137どちら?
A. 事故当初はセシウム134とセシウム137はほぼ1:1の同量で、およそ1年後の現在は、セシウム134減衰で、0.7:1ぐらいです。これは、稲作地と他の農地で違いはありません。
Q. 米中のCsはICP-AESで定量できるかICP-MSが必要か
A. 福島第一発電所事故以前から土壌にある安定元素のセシウムはICP-MSで計測可能です。放射性CsをICP-MSでの測定を考えたことはありません、検出は難しいと思います。
Q. 鍋でゆでた場合ゆで汁にもセシウムは溶出する?
A. 肉、魚、野菜で溶出すると思いますが、その割合は食品ごとに異なると予想されます。
Q. 資料はホームページなどで公開されるのか
A. 本報告会の様子はすべて動画で公開されています。
Q. 学生が調査に参加することは未だに不可能?
A. 2012年4月より、十分な安全が確保されていることを前提にして、学生も調査に参加できることになりました。
Q. こうしたセミナーを福島で開催できないか、映像を福島で流せないか
A. ニーズを把握した上で検討したいと思います。
回答教員一覧
長澤 寛道 大学院農学生命科学研究科長・教授
高田 大輔 附属生態調和農学機構・助教
山田 利博 附属演習林・教授
渡部 終五 水圏生物科学専攻・教授
田野井 慶太朗 放射性同位元素施設・准教授
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