第六回放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会

-東日本大震災に関する救援・復興に係る農学生命科学研究科の取組み-

2013年4月20日(土) 13:00~17:00

Q&A

小山 良太 (福島大学経済経営学類 准教授)
● 検査機関で、毎日放射性セシウムの検査をしている者です。他業種よりも安月給で、Ge検出器4台を1~2人で回しながら「消費者の安心の為」と思って働いているのに、信用してもらえないというアンケート結果、ショックです。情報発信方法として、何かアイデアはないでしょうか?福島県の農産物は、確かにCs-134、Cs-137、ほぼ出ません。弊会では、米について情報提供のシステムの用意があります。

ご意見どうも有り難うございます。消費者庁、農水省、福島県および各自治体、JAグループ等で情報提供を行っているところですが、検査態勢の体系化が進んだ、検査自体が大きく変わったことを過去の総括とともに、どこかで正式発表する機会があると良いと思っております。

● 土壌のMAPはよい案でしょうが、米の場合は対策がカリ肥料の濃度に大きく依存する場合は難しいのではないだろうか。

土壌マップは放射性物質の含有量を測定しマップ化するだけではなく、土壌の成分や環境評価も含めたリスク分析を総合的に判断する基礎データとして位置付けております。このような農地の基礎データを基にすれば、カリ肥料による対策も個々の圃場ごとに効果的に施することが出来ます。

● 福島県の作物には特別補助金を与えて、他県産より安くしたらどうか?

現状では、平均で通常時の20%価格で取引されている状況です。その差額を原発事故対応の補償金(いわゆる損害賠償の風評被害分)で埋めているわけですが、ある意味このことが特別補助金と言えなくもないと思います。しかし、このような補償は永久に施されるわけではなく、また現地の生産者や関係者もこれを望んでいません。商品の安全性を適正に反映した適正な価格がつくことが本来の望みだとおもいます。現状は、賠償されるのだから安くてもいいだろうという買いたたきの状況があると指摘されており、補助金のような形態は市場をゆがめる要素もあると思います。

● 福島県のノウハウを他県も利用されているのでしょうか。検査結果と試験、分析のリンクで調査が進んだと思いますが、仮に全数検査をしなかったとして分析は進んだでしょうか。

福島県の検査システムは他県では一部の利用に限定されており、これが大きな問題だと考えております。汚染地域は福島県に限らないわけですから。米の全袋検査が結果分析、生産対策の要になったということはその通りだとお思います。

● 損害、作付の問題、風評等をいくら後追いしても研究の満足で終わってしまう。何故 農業、鳥等が原発と共存できぬ、とはっきり言わないのか?

本報告の依頼内容に原発問題自体が含まれておりませんでしたので発言は控えましたが、原子力発電という現行の技術体系・運営システムと自然・農林水産業の共存は極めて難しいと判断しています。

● 作物別にトレーサビリティーについて実施の可能性を検討されていますか。

米については全袋検査、全戸コード管理によるトレーサの仕組みが設けられております。2013年度はモモ、他というように品目を拡大していく予定となっています。これは福島県の取り組みであり、国の制度ではないところに問題が残ります。

● 消費者が放射能残量等気になった(不安)時に気軽に計測できるシステムを作ることを検討されていますか。

消費地検査について、ベラルーシでは保健所管轄で特に汚染地域を中心に検査の仕組みが整備されております。日本においては、福島県等被害地域の自治体やNPOによる自主検査が主流ですがこれを制度として設計したり、検査方式をマニュアル化・指導する仕組みが必要になると思います。

西村 拓 (東京大学大学院農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻 教授)
● 土の中のミミズやモグラも土壌をかくはんしているともいわれますが、今回の物理的な動きに比べて影響の大きさはどんなものでしょうか。

ミミズやモグラのよる粗大孔隙は、大きな降雨時に地表面に湛水が生じた場合、地中への物質移動を促進する。したがって、台風時等の際に、地表のCsを収着したコロイド粒子が粗大孔隙を通じて深い層へ移動する可能性は否定できない。

● 土壌中のセシウムの動態についてCsセシウムはアルカリ金属なので、石灰のpH調整ではないがpHを下げて酸性化する事によって水和の条件が変わったり、収着が弱まり、粒子状として促進移動が加速するといったようにはならないだろうか?

基本的にpHを下げても水和の程度が大きく変わることは無いと考える。pH低下によって土壌や有機物のpH依存荷電が正荷電増大に傾くことで、収着し難くなる可能性はある。pHが低くなると、有機物コロイドの荷電は正荷電に偏り、粘土粒子の永久荷電(負)との相互作用で移動が抑制される可能性があるが、いずれも可能性だけで、実際に起きるかどうかは、細かい条件を考慮した検討をしなければはっきりしたことは言えない。

山田 利博 (東京大学大学院農学生命科学研究科 附属演習林 教授)
● タケノコは採取すれば、長い目でみれば少しずつセシウム含量をへらすことができそうですが、野生キノコはどうやったらセシウム含量をへらすことができますか?

林地の除染(土壌表層、特にリター層の除去)はまだまだ効果があると考えられます。ただし、林地や生態系の攪乱になり、野生キノコの発生も減少する可能性があります。

タケノコについても、採取だけでは量が知れています。幹を伐採し持ち出すこと、土壌表層を除去することと組み合わせることで効果が出ると言えるでしょう。ただし、タケノコ生産竹林は畑と同じで多量の施肥や耕耘もしていますので、今となっては土壌表層の除去は効果が薄いかも知れません。

また、いずれも、カリウムや安定セシウムの散布は効果があると考えられます。天然/人工の吸着剤の投入も効果はあるでしょうが、異物による攪乱は評価が分かれるかも知れません。

● 「濃縮率」とは何か? つまり「1」というのはどういう状態での測定値か?

キノコでの濃縮率(移行係数)は、基質=養分を吸う対象(土壌・リター、材、培地)とキノコでの濃度の比率です。自然状態のキノコの場合は評価が難しく、どこを基準にするか(リター層かA層か)によって数値が大幅に変わります。したがって、通常は培養実験で得た培地中とキノコ中の濃度との比を用います。

なお、現在のシイタケ用原木の基準値は50Bq/Kg、同じく菌床(おがくず、米ぬか)の基準値は200Bq/kgですが、これはシイタケの放射性セシウムの濃度は原木の2倍(濃縮率2)、菌床の半分(濃縮率0.5)というデータに基づくものです。

● チャナメツムタケなどを植えて除染できないでしょうか。除染後にチャナメツムタケの保管場所が問題ですが・・・

チャナメツムタケの林地栽培ということになりますが、キノコは菌糸が十分に蔓延して初めて発生します。従って、まず菌糸を蔓延させなければなりませんが、好みの環境もありますし、他の微生物(キノコやキノコ以外の菌類、細菌など)や土壌動物との競争にも勝たなければなりません。つまり、土壌生態系は環境と他種類の生物で成り立っていますので、特定の生物種を優占させることは難しいのです。チャナメツムタケは菌根を作りますが、菌根性のキノコの場合はさらに植物の根に侵入・共生させる必要があります。マツタケの増殖が難しいのもこれが理由です。

たとえ林地で蔓延とキノコの発生がうまくいっても、土壌と比べて量はわずかですし、キノコの90%は水分ですので、キノコで除染するより汚染リターを除去する方が、除去後の表層を保護する必要を考慮してもはるかに容易です。

● キノコを農産物として検討された例はないでしょうか。(福島の露地のシイタケ・キノコ農家はなくなってしまっていると思います)

汚染地で露地栽培(原木(ホダ木)栽培)しても原木が汚染されていなければ問題ありません。ただ、離れた所からわざわざ汚染地に運んできて栽培するのは現実的ではありません。福島県は原木の大きな供給地で、事故後は他県でも原木の入手が困難になり、代替の供給地探し、代替樹種による栽培試験をしているところもあるようです。もちろん、福島県内でもほとんど汚染のない所もありますので、そこの原木は安全です。なお、原木の除染方法(洗浄、剥皮など)も検討されていると聞いています。

● キノコはKを多く含む傾向であるためCsも多く含むのか。

キノコは一般にカリウムをよく吸収し培養実験で培地より高い濃度で保持します。また、セシウム137の移行係数(濃縮率)はカリウムと同じ程度である場合が多いことから、カリウムと同じようにセシウムを吸収すると考えられます。なお、これまでにキノコの測定されたセシウム137の移行係数は2桁と高いものもありますが、全体的にはそれほど高くなく、移行係数が1以下のキノコもあります。

ただし、セシウムを特別に多く取り込む(この機構はまだ不明)キノコもありますので、すべてがカリウムと同じということで説明できる訳ではありません。

田野井 慶太朗 (東京大学大学院農学生命科学研究科 附属放射性同位元素施設 准教授)
● セシウム以外の放射性物質の追跡調査はどの様でしょうか?

多くの陸域の調査に際しては放射性セシウムの動態解析が重要であると思います。一方、放射性ストロンチウムについては、測定の難しさから調査研究は進んでおりません。

● 質問がなぜ直接出来ないのか。直接聞く事で理解が深まるのではないか。出席者の意見を聞くべきではないか。間接な為 司会者の私見が含まれているのではないか。報告会の意義を理解すべきではないか。

本研究報告会は質疑応答の代読の形式を取らせていただいております。講演者から一方向の情報提供では十分に内容が伝わらないことがありますので、質疑応答が多くあってこそ、ご来場の方々の理解が深まると思っております。この形式は、できるだけ多くのご質問を講演者に答えていただくために考案されたもので、代読に関して賛否ご意見いただいているところでございまして、今後もご意見いただければ幸いです。尚、この報告会とは別に、サイエンス・カフェで放射能汚染のテーマで話すなど、より密なコミュニケーションが図れる機会がありますので、是非そちらへの参加もご検討くださいませ。

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