プロフィール

松下 範久

松下 範久

MATSUSHITA Norihisa

専攻 森林科学専攻 Department of Forest Science
研究室 森林植物学研究室 Laboratory of Forest Botany
職名 准教授 / Associate Professor

一般の方へ向けた研究紹介

樹木と微生物との相互作用を明らかにして、健全な森林の維持に貢献する。

 私たちの体の表面や腸内に非常に多くの微生物が生育しているように、森林を構成する樹木の表面や内部にも多種多様な微生物が生育しています。これらの微生物と樹木との間には、微生物が樹木から有機物(光合成産物)を得る代わりに樹木の栄養吸収を促進する相利共生、樹木が分泌する有機物などを微生物が一方的に利用する片利共生、微生物が有機物を得るために樹木に感染して病気を引き起こす寄生といった関係が見られます。しかし、これらの微生物を肉眼で観察することは困難なため、樹木に共生・寄生するほとんどの微生物の生態は分かっていません。私たちは、主に菌類(カビやキノコ)を対象として、顕微鏡観察や機器分析などの従来の手法に加えて、人の親子鑑定や腸内フローラ調査などにも使用される遺伝子解析技術や、新たに確立した菌類の可視化法などを用いて、樹木共生菌の繁殖様式や共生効果の解明や、樹木病原菌の分類や伝播・蔓延様式の解明などに取り組んでいます。これらの研究を通して、健全な森林の維持や荒廃した森林の再生、樹木医による街路樹の維持管理や衰退木の診断・治療、樹木共生菌であるマツタケの人工栽培技術の確立などに貢献したいと考えています。

教育内容

フィールド調査と室内実験により、森林に生育する菌類の生態の謎に迫る。

 微生物の中でも菌類は、森林生態系の物質循環において重要な役割を担っています。また、ほとんどの樹木は、菌類と共生せずに生育することはできません。一方で、樹木病害を引き起こす最大の原因も菌類です。しかし、高校までは、菌類について学ぶ機会はほとんどありません。そのため学部の講義では、まず、菌類の分類や生活環、森林生態系における役割など、菌類に関する基礎的な内容を学びます。さらに、菌類による樹木病害の概要や防除方法、健全な森林や樹木の維持管理方法について学びます。実習では、菌類を顕微鏡で観察したり、樹木病害や木材腐朽の様子をフィールド(演習林)で観察したりします。卒業論文や修士・博士論文の研究では、各自が興味をもった菌種や樹木病害、樹木と菌類との共生関係を対象にします。そのため研究テーマはさまざまですが、全員が森林植物や菌類のフィールド調査と室内実験を行うため、卒業・修了するまでに両方の研究手法を修得できます。卒業後は、学部や大学院での研究分野に近い森林・林業分野の国・地方公務員や民間企業のほか、菌類は食品や飲料の生産にも深くかかわるため、食品分野の民間企業に就職する例も多くみられます。

共同研究や産学連携への展望

マツ林でシロを発達させる条件を明らかにできれば、マツタケの人工栽培ができる。

 現在、日本では、マツ材線虫病(マツ枯れ)などの病気の蔓延や里山林の管理放棄などにより、荒廃した森林が増えています。私たちは、荒廃した森林を再生するためには、再生に関わる人々のモチベーションを高めるものが必要であると考えて、マツタケなどの経済的価値の高いキノコの人工栽培技術の確立に挑戦しています。マツタケは、マツの細根に感染して菌根と呼ばれる共生体を形成し、さらにシロと呼ばれる菌根と菌糸の集合体を発達させた後にキノコを発生させます。そのため、マツタケの人工栽培は、1)マツの実生苗にマツタケの菌根を形成させ、2)実生苗を育てながら小さなシロを発達させ、3)成長した苗木をマツ林に移植してシロを発達させる、という3つのステップにより可能になると考えています。実際に海外では、トリュフの菌根を形成させた苗木を野外に移植することで、キノコの形成に成功しています。これまでに第1と第2のステップについての手法は確立できましたが、第2のステップで得られた苗木をマツ林に移植するだけでは、シロは発達しませんでした。第3のステップには何らかの生物的・非生物的要因が関与していると推測しており、その要因の解明が現在の課題です。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  森林、樹木、植物、菌類、微生物、共生、寄生、相互作用、きのこ、菌根菌、病原菌、樹木医、生態、里山
キーワード2  :  森林衰退、森林再生、森林保護、自然保護