プロフィール

大塚 重人

大塚 重人

OTSUKA Shigeto

専攻 応用生命化学専攻 Department of Applied Biological Chemistry
研究室 土壌圏科学研究室 Laboratory of Soil Science
職名 准教授 / Associate Professor

一般の方へ向けた研究紹介

将来リン肥料が作れなくなる?私たちにできることは何か。

 現在、世界人口の1/3から1/2程度が、化学肥料によって生産された食糧によって命をつないでいます。有機農法に注目が集まる一方で、化学肥料の使用を今やめる訳にはいかないのが現実なのです。肥料の中でも、リンはその資源の枯渇が懸念されており、早晩、人類は世界のリン鉱石を掘り尽くすと考えられています。私たちの社会が少しでも長く存続するためには、農地におけるリン肥料の使用量低減と、排水からのリンの回収の2点が重要となります。このうち、私の研究では前者に取り組んでいます。土壌中でほとんど溶けないために作物に利用されなくなってしまっているリン酸塩を、土壌微生物がもともと持っている機能を活性化することにより、再び溶解させ、作物が利用できるようにするのが目標です。これまでに、一般に植物が根の先端から分泌することが知られているペクチンが、土壌中のリン酸塩を溶かす細菌の働きを活性化しているらしいことが分かってきました。現在、植物が根から分泌する他の化合物にも同様の効果がないかを検証しています。将来的には、リン酸塩を溶かす細菌の働きを活性化する能力の高い作物の作出も課題となるでしょう。

教育内容

幅広い知識のネットワークを構築しよう。

 土壌生態系の中の微生物たちは競争・共存状態の平衡に達しており、非常に安定な群集構造(群集組成)を形成しています。その状態のまま、特定の微生物の特定の機能だけを活性化することは、非常に困難です。この土壌微生物群集の特性を学生の皆さんに理解していただくために、私の講義の中では、土壌微生物の多様性、物質循環機能、土壌微生物と植物や昆虫との相互作用、群集構造安定性の理論的解釈などを解説しています。また、研究室に配属された学生と一緒に、土壌微生物の群集構造の安定性の鍵の探索や、群集機能の平衡を動かす方略の探索を、実験とディスカッションを通して進めています。このような教育・研究を通じて、学生の皆さんには幅広い知識を身につけていただき、ある現象を一側面だけから理解するのではなく、知識のネットワークの中でより有機的に理解していただけるようになっていただきたいと思っています。卒業生の進路は様々で、公務員(国家、地方とも)、公的研究機関の研究員、大学教員、化学系メーカー、農協系の団体など、専門知識を生かせる職業に就く人もいれば、商社や銀行を就職先に選ぶ人、システムエンジニアになる人など、まさに多様です。

共同研究や産学連携への展望

農地土壌生態系の健全性をアピールして企業価値を上げましょう。

 現在、世界人口の1/3から1/2程度が、化学肥料によって生産された食糧によって命をつないでいます。有機農法に注目が集まる一方で、化学肥料の使用を今やめる訳にはいかないのが現実です。そんな中、リン肥料の原料であるリン鉱石が、あと百数十年で枯渇すると言われています。少しでも長く私たちの社会を持続するためには、農地におけるリン肥料の使用量低減と、排水からのリンの回収の2点が必須です。このうち、私の研究では前者に取り組んでいます。リン肥料の使用量を低減するためには、土壌微生物の機能に頼るしかありません。土壌中でほとんど溶けないために作物に利用されなくなってしまっているリン酸塩を、土壌微生物がもともと持っている機能を活性化することにより、再び溶解させ、作物が利用できるようにするのが目標です。これまでに、一般に植物が根の先端から分泌することが知られているペクチンが、土壌中のリン酸塩を溶かす細菌の働きを活性化しているらしいことが分かってきました。現在、植物が根から分泌する他の化合物にも同様の効果がないかを検証しています。今後、この研究を進めていきながら、もう一つの研究を展開したいと考えています。それは、農地土壌の生態系の健全性評価です。自社農場や契約農家さんの畑で食材を生産している企業は多いと思いますが、その農地の生態系が健全であり、適切な微生物多様性が維持されていることを示すことは、株主に対して企業価値を提示する際に、今後重要となってくるでしょう。現在、土壌微生物の多様性がどうなっていれば、土壌微生物の組成がどうであれば、その農地が健全であると言えるのか、統一見解はありません。これを科学的に記述できるような、ある種の指標を確立したいと考えています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  土壌、土壌微生物、土壌生態系、リン肥料、根分泌物、微生物群集構造
キーワード2  :  持続的食糧生産、環境負荷の低減