プロフィール
専攻 |
生産・環境生物学専攻
Department of Agricultural and Environmental Biology
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研究室 |
園芸学研究室
Laboratory of Horticultural Sciences
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職名 |
准教授 / Associate Professor |
一般の方へ向けた研究紹介
開花を自由自在にあやつる
植物の開花時期を制御することは、主食用の穀物だけでなく、果物、野菜、花などの園芸作物の安定供給にも重要です。近年の地球温暖化により開花遅延や着果不良が起こり、世界中で作物の安定生産が脅かされています。一方で、園芸作物は絶え間ない品種改良によって多種多様な品目・品種が生み出されており、モデル植物にはない多様性や複雑な環境応答性を秘めています。この園芸作物が持つ多様性を利用することで、画期的な新品種や栽培方法の開発に貢献したいと考えています。私たちは、キク(菊)やハス(蓮)に注目し、分子生物学的な研究手法によって開花制御の分子機構解明に取り組んでいます。キクは真夜中に光を当てて開花を制御する「電照栽培」が普及していますが、光に敏感に反応する理由は不明なままでした。私たちはこれまでに、電照を感知する光センサーや体内時計機構、さらには葉で合成される開花抑制物質の存在を明らかにしてきました。今後は、光と温度環境の複雑な相互作用について解明していくことで、最終的には不良環境下においても作物の開花期を自在に操る技術や、環境耐性をそなえた新品種を短期間で育成できる技術を開発したいと考えています。
教育内容
花の研究を通じて具体的な課題解決と根本原理の追求を学ぶ
学部3年生の農場実習ではキクの育種プログラムとハスの実習を担当しています。キクの実習では世界で一つだけの東大オリジナル新品種を開発するため、有望な品種同士を交配し、1年を通して播種、育苗から圃場での栽培管理に取り組みます。応用生物学実験では、花や野菜の色素や糖分析、遺伝子組換えカーネーションのDNA分析等を行います。研究室では主に、キクやハス、ハナスベリヒユの開花や花の形・色素に関して、分子生物学的な手法で研究に取り組んでいます。農研機構や海外の民間種苗会社とも共同研究を行っており、園芸産業における国レベルの政策や地方研究機関の動向、世界的な園芸業界のトレンドにも通じています。研究室は留学生も多く、英語での日常会話や研究発表を通じて幅広い視野と国際舞台で活躍するスキルを身につけることができます。多種多様な園芸作物とそれを取り巻く社会的な諸問題を扱うことで、具体的な課題を自ら見つけ出し解決する人材の育成を目指しています。研究室の卒業生は、農林水産省や農研機構、地方試験研究機関、種苗会社など、農学部の教育内容に直結した分野で活躍する卒業生も多い一方で、広告代理店、銀行、IT関係、製造業など、幅広い分野で活躍しています。
共同研究や産学連携への展望
理想的な栽培ギク実用品種を短期間に開発!
私達は、キクの高温開花遅延や電照感受性の問題を解決するため、栽培ギクの画期的な実用品種育成を最終的なゴールとし、二倍体の野生ギクを使って重要形質を決定している遺伝子の同定に取り組んでいます。ここで得られた知見は栽培ギク品種の高速育種を可能にするためのマーカーとして利用可能であり、次世代の育種技術としてゲノム編集等により複数の遺伝子を同時に直接改変することも実現していく予定です。これが可能になれば高次倍数性で遺伝的に複雑な栽培ギクの育種を極めて短期間に実現することが可能となります。また、これまでにキクの電照を感知する光受容体を特定し、かつ光に最も敏感な時間帯の存在を明らかにしたことで、省エネルギー型の電照栽培方法を提案し、電照栽培マニュアルとして発表することにも貢献しています。今後は、温度環境と光環境の統合点にある遺伝子を明らかにし、さらに栽培ギクでの効率的な遺伝子改変法を開発していく予定です。得られた知見は他のキク科植物の遺伝子改変にも応用可能であると考えています。キク種苗会社や環境制御に関心のある農業資材関連企業の皆様と連携し、実用品種の育成や栽培法の開発を進めていきたいと考えています。
研究概要ポスター(PDF)
関連リンク
キーワード
キーワード1 : 植物、開花、園芸、花き、キク、ハス、短日、レンコン、電照
キーワード2 : 地球温暖化、省エネルギー型施設園芸、高温開花遅延