プロフィール
専攻 |
獣医学専攻
Department of Veterinary Medical Sciences
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研究室 |
獣医薬理学研究室
Laboratory of Veterinary Pharmacology
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職名 |
教授 / Professor |
一般の方へ向けた研究紹介
第2の脳、「腸」の運動を探る
「腹を決める」 「腹を立てる」 「腹黒い」 「腹の虫が治まらない」など、「腹」(すなわち消化管)ということばを使って人の感情を表す慣用句がたくさんありますよね?なぜでしょうか??それは、消化管は脳に匹敵する神経回路で包まれており、しかも、脳の情動が消化管の運動や痛みに影響を与えることを古くから人は実感していたからでしょう。この脳と消化管の関連性を現代の生命科学では「脳-腸 相関」と呼びます。緊張でお腹が痛くなる、、、こんな経験をお持ちでありませんか?これがまさに脳-腸 相関の一例です。
人や動物の生理学の教科書において、消化管の運動は、骨格筋や心筋のように内臓の動きを制御する平滑筋という筋細胞と消化管の壁を包む神経網(知覚神経と運動神経などを含む)の相互作用で説明されています。この説はこの100年以上変りませんが、近年、消化管壁を構成する細胞群のなかに、心臓と同じようにペースメーカー能を持つ間質細胞や、正常時から常在し消化管運動に影響する免疫細胞などが明らかになり、この100年続いてきた消化管運動制御の仕組みは新しい説を構築しなくてはならなくなっています。私の研究は、この消化管運動を制御する仕組みを明らかにすると共に、様々な消化器疾患や老化と消化器運動異常との関係を明らかにすることです。
教育内容
獣医学は人の創薬研究に極めて重学問学問
私が学んできた学問は獣医学です。獣医学は医学や歯学と並んで様々な疾患の発症の仕組みや診断、治療法について総合的に学ぶ学問であり、対象の動物が人ではなく食用動物や愛玩動物など動物全てです。私が専門とする薬理学は動物や人の生理学、病態生理学をベースに様々な治療薬の薬理作用と副作用を学ぶ学問であり、獣医内科学の薬物治療学の基礎となります。
さて、日本の製薬企業は日本の主要な製造業の占めるGDPの2割を占める重要な産業です。創薬研究において、人の疾患の発症の仕組みや診断、治療についての知識をもって俯瞰的に病気を捉える視点が大切です。しかも、新薬開発には実験動物やイヌ、サルなどを使った前臨床研究が必要不可欠であり、多くの動物についての生理や病態を学ぶ獣医学はまさに創薬研究に最適な学問といえます。また、イヌの病気の実に8割は人の病気と原因は同じであり、人の医薬品を治療に使っているのです。
獣医薬理学を専門として教育する立場として、獣医学を学ぶ学生の皆さんには、獣医学こそ動物科学の最高峰であり、創薬研究にも必要不可欠な学問であることを意識して教育しています。
共同研究や産学連携への展望
新規消化器運動調節薬の開発と天然有機化合物の新規生理活性作用の解明
(1)新規消化器運動調節薬の開発
消化管運動は消化管壁の間質を構成するカハール介在細胞(Interstitial Cells of Cajah; ICC)やPDGFRα陽性間質細胞(Pα cells)によっても制御されることが近年わかってきた。しかし、ICCやPα cellが様々な消化器疾患でどのような機能変異を示し、どのように病態発症に関与するかは断片的な知見が得られているに過ぎない。我々は、ICCやPα cells、常在型マクロファージ、壁内神経、平滑筋細胞を含む小腸オルガネラクラスター作製技術を持ち、小腸クラスターのCa動態測定やbeating運動計測によるin vitroでのICCやPα cells、平滑筋細胞の機能を解析できる。そして、これらを指標に新規消化管運動調節薬の開発を目指している。
(2)天然有機化合物の新規生理活性作用の解明
獣医薬理学研究室では60年以上の間、4代の教授に渡って天然有機化合物の生理活性作用の解明を研究の柱の1つとして継続してきた。古くはテトロドトキシン、パリトキシン、オカダ酸などの海洋天然毒研究であり、近年では米ぬか成分であるγオリザノールの生理活性作用の研究や漢方薬である六君子湯や大建中湯の薬理作用の研究などである。
研究概要ポスター(PDF)
関連リンク
キーワード
キーワード1 : 消化管、蠕動運動、平滑筋、ICC、PDGFRα 前駆細胞、常在型マクロファージ、炎症、線維化、老化、フレイル、サルコペニア、機能性食品、漢方薬、天然毒
キーワード2 : アカデミア創薬、高齢化社会、食の安全、食の確保、