プロフィール
一般の方へ向けた研究紹介
木材を木質材料として利用する際には、必ず木材用接着剤が必要になります
木材工業は、気候変動対策や資源循環型社会の構築に貢献できる産業であり、世界各国に共通する重要な課題となっています。木材は大気中の二酸化炭素を吸収・固定することで、地球規模での温暖化抑制に寄与します。そして木材を木質材料として利用する際には、必ず木材用接着剤が必要になります。私は、その「木材用接着剤」を研究しています。木材は多数の小さな穴をもつ「多孔質」という構造をしており、接着剤が内部に浸透し固まることで「アンカー効果」と呼ばれる働きが生じ、強い接着が得られます。しかし、接着剤の浸透の仕方と接着強度との関係については、まだ十分に解明されていません。そこで私は、「共焦点レーザー顕微鏡」という特殊な顕微鏡を用いて、木材に接着剤がどのように浸透するかを観察しました。その結果、水に溶ける接着剤は細胞間のすき間や放射組織に浸透しやすく、水に溶けない接着剤は細胞の内部に入り込みやすいという違いを発見しました。この違いが接着強度にどのような影響を与えるのかを明らかにすることが、私の研究の大きな目標です。
教育内容
木材工業は、気候変動対策や資源循環型社会構築に貢献できる産業であり、世界各国で共通の課題となっている。木材は大気中の二酸化炭素を吸収・固定することで、地球規模での温暖化抑制に寄与する。
木材は多孔質であり、接着剤が内部に浸透・固化することで生じるアンカー効果は、接着強度を支える主要な要因の一つとされている。しかし、接着剤の浸透様式が接着性能にいかなる影響を及ぼすのかについては、知見が断片的で体系的には解明されていない。申請者は共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)の観察から、水溶性のメラミン・ユリア共縮合樹脂接着剤と、非水溶性のイソシアネート系接着剤(pMDI)とでは浸透様式がまったく異なることを見いだした。この結果から、水溶性接着剤は主として放射組織や細胞間隙に、非水溶性接着剤は細胞内腔に浸透する傾向が示唆された。ここから論を進めると、CLSM観察から見えてきた浸透様の違いが接着強度などに、どのような影響を与えるかという問いが浮かび上がる。本研究は、この未解明の点に実験的・分析的検討を加えることで、木材接着メカニズムの理解を深化させることがねらいである。
共同研究や産学連携への展望
木材接着断面の共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察
私はこれまで、水性高分子‐イソシアネート系接着剤の特性評価に関する研究を進めてきた。さらに、木材用接着剤の浸透挙動を直接的に理解することを目的として、共焦点レーザー顕微鏡を用いた接着界面の観察研究に着手した。これが現在の研究課題の起点となっている。従来、この分野では顕微鏡観察結果に基づく定性的な議論にとどまっていたが、私は独自の画像解析手法を導入することにより、接着剤の浸透様式を定量的に比較可能とする方法を世界で初めて提示した。近年は研究対象を拡張し、動植物由来廃棄物を利用した新規材料開発にも取り組んでいる。具体的には、ケナフ、稲わら、アカシア・マンギュウム、鶏羽毛といった未利用資源を酸触媒により液化し、それらをイソシアネート系化合物と組み合わせることで、新規ポリウレタン材料の創製を試みている。本研究は、木材接着の基礎的理解を深化させるとともに、再生資源の高度利用による持続可能な材料開発に資するものである。
研究概要ポスター(PDF)
関連リンク
キーワード
キーワード1 : 木材、接着剤、木質材料、環境配慮型材料、接着界面、顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、CLSM、画像解析、定量評価、イソシアネート、ホルムアルデヒド
キーワード2 : 気候変動、森林破壊、木材の炭素固定