プロフィール
一般の方へ向けた研究紹介
PTSDの理解と克服に向けた恐怖記憶のメカニズム研究
恐怖記憶は、生物が危険から身を守るために重要な記憶ですが、強いトラウマ体験によって形成される恐怖記憶は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患を引き起こす要因となります。
私は、PTSDモデルマウスを対象に、恐怖記憶を制御する脳内メカニズムの解明に取り組んできました。この研究を通じて、PTSDの新規治療法開発や記憶想起メカニズムの理解を目指しています。
これまでに、アルツハイマー病治療薬として臨床で用いられているメマンチンが、海馬神経細胞の増殖を促すことで恐怖記憶の忘却を促進し、さらに恐怖記憶に伴って生じる不安様症状を改善することを報告しました。
また、恐怖記憶が想起されると、恐怖を維持・強化する「再固定化」のプロセス、あるいは恐怖反応を減弱させる「消去」のプロセスが誘導されることが知られています。現在は、これらプロセスの詳細なメカニズムを明らかにするため、光遺伝学的解析、リアルタイムイメージング、網羅的遺伝子発現解析などを用いて研究を進めています。
さらに、記憶研究で培った知見を応用し、近年ではアミノ酸投与による記憶能力向上メカニズムの解明にも取り組んでいます。
教育内容
動物実験を通じて、生命科学の基礎と研究者の姿勢を学ぶ
私は学部3年生の学生実験「食品・動物実験」において、動物実験パートを担当しています。具体的には、マウスの飼料調製、飼育、解剖、生体組織からのRNA抽出などを通じて、生命現象を理解する上で不可欠な動物実験の基礎を学んでもらいます。動物実験には倫理面や安全面から多くのルールと制約がありますが、実習を通してその重要性と意義を理解してもらうことを目的としています。
また、研究室内では研究指導や実験技術指導を行っています。特に動物実験は準備や技術習得に時間を要し、相手が生き物であるがゆえに計画通りに進まないことも少なくありません。そうした経験を通じて、冷静に結果を見つめ、焦らず着実に研究を進める姿勢を身につけてもらえるよう心がけています。
一方、研究活動を進める上で大切なのは、目先の結果に一喜一憂するのではなく、粘り強く積み重ねていく姿勢であると考えます。さらに、自分ひとりで抱え込むのではなく、研究は周囲とのディスカッションを通じて深まるものであることも重要です。学生には、協調性を持ちながら積極的に意見交換できる研究者へと成長してもらうことを目標としています。
共同研究や産学連携への展望
脳科学と栄養科学を融合し、心と脳の健康を探る
私は恐怖記憶やPTSDなどの精神疾患の理解を目的に、動物モデルを用いた研究を行っています。恐怖記憶が脳内でどのように維持・変化するのかを、光遺伝学、リアルタイムイメージング、遺伝子発現解析などの先端的手法を組み合わせて解析しており、これまでの研究から、PTSD新規治療ターゲットとなり得る分子メカニズムもわかりつつあります。そこで、これまでの基礎研究の成果を社会課題である心の健康維持に結びつけることを目指しています。
現在は、恐怖記憶の分子メカニズム解明に取り組むとともに、記憶研究で培った知見を応用し、アミノ酸投与による認知機能向上メカニズムの解析も進めています。食品成分や栄養素による脳機能改善の科学的根拠を提供し、機能性食品の開発や健康寿命の延伸に貢献できる可能性があります。食品由来成分の効果を脳科学的に評価できる点が強みであり、神経科学的アプローチを基盤とした栄養化学的研究により、栄養化学と脳科学を融合させた「脳栄養学」研究分野における今後の発展の一助となると考えています。
研究概要ポスター(PDF)
関連リンク
キーワード
キーワード1 : 動物、脳、記憶、神経科学、栄養
キーワード2 : 精神疾患、健康寿命、認知症