プロフィール

磯部 祥子

磯部 祥子

ISOBE Sachiko

専攻 生産・環境生物学専攻 Department of Agricultural and Environmental Biology
研究室 園芸学研究室 Laboratory of Horticultural Science
職名 教授 / Professor
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一般の方へ向けた研究紹介

ゲノムとデジタル技術で切り拓く園芸学の未来

 店頭には季節になるとさまざまなイチゴの品種が並びます。では、それぞれの品種の特徴は、ゲノム配列のどの部分が違うことで生まれているのでしょうか。また、急速に変化する地球環境の中で、美味しい農産物を安定して生産できる品種をつくるには、どのような工夫が必要なのでしょうか。園芸学研究室では、ゲノム情報やデジタル技術を活用し、園芸作物の価値を高めるとともに、変わりゆく環境に対応した持続的な生産を実現するための研究を進めています。園芸作物は、生殖様式や利用部位、世代交代にかかる年数によって、最適な育種法が異なります。例えばイチゴでは、従来は苗を増やす栄養繁殖型が主流でしたが、近年は種から育てる種子繁殖型品種の開発も進んでいます。私たちは、複雑な遺伝構造をもつイチゴを対象に、ゲノム情報を駆使し、それぞれの繁殖様式に適した育種法を開発しています。さらに、果樹やサツマイモのような栄養繁殖型作物では、不法な品種流出が起こりやすく、品種権の保護が大きな課題となっています。種苗の品質管理において品種名が疑われる場合もあり、そのような場面で役立つよう、DNAマーカーによる品種識別技術を開発し、権利保護や品質保証に貢献しています。また、近年注目される「フェノミクス」研究では、植物の形や環境条件をデジタルデータとして大量に取得し、その解析から生育を予測します。私たちもこれまでに培った技術を応用し、大規模データを用いた植物の生長予測に挑戦しています。

教育内容

園芸作物の謎を解き、社会と未来をつなぐ

 私たちの毎日の生活は、野菜や果樹、花きなど、さまざまな植物に支えられています。それぞれの植物には、人に利用されるまでの歴史や栽培の工夫、生活の中で果たしてきた役割といった、固有のストーリーがあります。園芸学は、このように多様な植物を幅広く対象とする学問です。食用となる野菜や果樹だけでなく、観賞用の花や景観を彩る植物、薬として役立つ植物など、研究対象は実に多彩です。
 私の研究では、ゲノム情報や植物のデジタル画像といった大規模データを取得し、それを解析することで、植物が持つ不思議を解き明かしています。研究の視点は目的によって異なり、植物全体を大きく俯瞰することもあれば、一つの種や現象に深く入り込むこともあります。園芸作物はモデル植物や主要穀物に比べて研究者が少なく、未解明の部分が数多く残されています。これは課題であると同時に、誰も知らないことを自らの研究で明らかにできる、つまり分野のパイオニアとなれるチャンスに満ちているともいえます。 さらに、研究は研究室の中だけで完結するものではなく、社会とつながることが大切です。園芸学の成果は、新しい品種の開発や栽培技術の改良につながり、私たちの暮らしをより豊かにしてくれます。自分の研究が社会を変える一歩になるかもしれない—そう実感できることこそ、園芸学の大きな魅力です。
 未知のことに挑戦し、社会に貢献したいという意欲、そして多様な植物の不思議を自分の手で解き明かしたいという好奇心を持つ学生の皆さんに、ぜひ園芸学の研究に参加してほしいと思います。

共同研究や産学連携への展望

共に創る持続可能な園芸産業の未来

 園芸作物の研究は、基礎的な科学の探究であると同時に、社会や産業と密接に結びつく応用性を持っています。私たちの研究室では、ゲノム情報やデジタル技術を活用し、品種識別マーカーの開発、新しい育種法の設計、生長予測技術の構築などに取り組んでいます。これらの成果は農業現場や企業活動に直結し、共同研究や産学官連携を通じて社会へ還元することを目指しています。
これまでにも、農業関連企業や種苗会社、自治体、研究機関と幅広く連携しながら研究を進めてきました。たとえばDNAマーカーを用いた品種識別技術は、品種権の保護や種苗の品質保証に不可欠であり、現場での実用化を見据えた共同研究として積極的に展開しています。また、イチゴをはじめとする園芸作物のゲノム情報を基盤とした新しい育種法の開発や、フェノミクスによる生長予測技術の確立は、スマート農業や持続可能な生産システムの実現につながる研究です。
 私たちの取り組みは、一方向的に成果を提供するのではなく、現場の課題や新たなニーズを共有しながら、共に解決策を創り出していく「協創」のプロセスです。今後も連携の輪をさらに広げ、知的財産の保護や持続可能な農業の確立、国際的に健全な品種流通の仕組みづくりに貢献していきたいと考えています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  園芸作物、ゲノム、大規模データ、育種、品種識別、DNAマーカー、データベース、フェノミクス
キーワード2  :  食料生産、気候変動、耐暑性、環境保全