プロフィール
専攻 |
生産・環境生物学専攻
Department of Agricultural and Environmental Biology
|
研究室 |
育種学研究室
Laboratory of Plant Breeding and Genetics
|
職名 |
准教授 / Associate Professor |
一般の方へ向けた研究紹介
作物の形を決める遺伝子の探索と応用
皆さんが食卓で口にしている植物由来の食品のほとんどは「育種」によって改良された農作物から作られています。「育種」の歴史は古く、1万年以上前から行われてきた作物もあると考えられています。育種によって改良されてきた形質は様々ですが、最も重要なものとして「形」があります。例えば、緑の革命で行われた作物の背丈を短縮するという形態形質の改良は、世界の食糧生産を劇的に向上させ、当時の食糧危機の克服に大きく貢献しました。私の取り組んでいる研究テーマの中心は、この「形」を決まる遺伝的メカニズムを明らかにすることです。これまでイネを研究材料に様々な形態形質に関わる遺伝子を研究してきました。例えば、イネの葉の枚数を制御する遺伝子、葉の裏表を決める遺伝子、葉序(葉の規則的な並び方)を変化させる遺伝子などを見つけてきました。また、胚や葉ができる過程でどのような遺伝子がどこで働いているのかを網羅的に理解するためにゲノムワイドな遺伝子情報なども蓄積しています。このような情報をもとにゲノム編集等の技術を用いて、形に関わる遺伝子の機能を分子レベルで解析し、植物や作物の形を決める基本原理の解明を目指して研究を進めています。また今後は、形に関わる農業上の有用形質を改良することによって、新しい育種材料の開発にも取り組みたいと考えています。
教育内容
イネを材料に形態形成や遺伝学を学ぶ
学部では「植物分子育種学」を担当し、分子遺伝学的手法を用いた育種に必要な基礎的な知識と分子育種の現状について講義しています。研究室配属後の学生、大学院生に対しては、主にイネの形態形成、発生過程で働く遺伝子に関するテーマに取り組んでもらっています。最近の具体的な研究テーマとしては、イネの葉間期制御に関わる遺伝子の解析、イネの葉の形態形成に関わる遺伝子の解析、イネの葉の発生過程に関わる新規遺伝子の探索、イネの葉の超撥水性に関わる遺伝子の解析、などがあります。これらの研究テーマを進めるに当たっては、基本的な分子遺伝学的手法、形態学的手法に加えて、ゲノム編集技術や網羅的遺伝子発現解析、細胞レベルでの発現解析、蛍光タンパクを利用したイメージング、電子顕微鏡やX線CT解析などの技術を取り入れています。また実験室での研究以外にも、生態調和農学機構(田無農場)での変異体のスクリーニングや形質調査、圃場での交配実験など、フィールドでの研究も行っています。毎日のラボの研究の中では、セミナーやマンツーマンの議論を通して遺伝学の基礎や論理的な考え方などを身につけることを目指しています。これまで指導した卒業生は、官公庁や食品会社の研究職、大学の職員など様々な職種で活躍しています。
共同研究や産学連携への展望
イネの遺伝子研究から新しい有用形質を見つける
イネの形態に関わる遺伝子の機能解析を行っています。イネの形態形質には様々なものがあります。特にイネの栽培特性や収量に関わる遺伝子は、その改変により農業的に有用な新規形質を作物に付加できる可能性があります。例えば、イネにおける葉の長さ(葉の細胞分裂)を制御できる遺伝子を同定していますが、この遺伝子を種子で強く働かせると種子が大きくなることが示されています。また、葉の分化速度を制御する遺伝子を同定していますが、この遺伝子は未知の化合物の生合成過程に関与する酵素をコードし、この化合物の発見はイネのみならず様々な植物の成長制御に極めて重要なインパクトを与えると考えられています。植物から未知の有用物質を単離することに興味のある方は、様々な材料を提供できます。また、植物の形とは少し異なりますが、イネを用いた植物の撥水性の研究もしています。イネはハスなどと同じく極めて高い撥水性、すなわち「超撥水」を持つ植物です。超撥水性を持つには表面の微小な凸凹構造と撥水性物質(ワックス)が重要ですが、それぞれに関与する遺伝子を同定しています。研究で得られた知見を通して、様々な物質の撥水性を制御したり、分子育種によるイネワックスの成分や含量を改変したりすることなどが将来的に可能かもしれません。
研究概要ポスター(PDF)
関連リンク
キーワード
キーワード1 : 植物、作物、イネ、遺伝子、分子、形、形態、発生、葉、撥水性、ゲノム編集、
キーワード2 : 食糧問題