プロフィール
| 専攻 |
応用生命工学専攻
Department of Biotechnology
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| 研究室 |
細胞遺伝学研究室
Laboratory of Cellular Genetics
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| 職名 |
助教 / Assistant Professor |
| researchmap |
リンク
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一般の方へ向けた研究紹介
多彩な膜脂質で環境に挑むカビの科学
糸状菌(カビの仲間)は、味噌や醤油の発酵醸造、土壌での枯れ木の分解など、農学の現場で欠かせない重要な微生物の一つです。私は、その働きを支える鍵として、細胞を包む薄さわずか数ナノメートルの脂質膜(生体膜)に着目しています。この膜に含まれる脂質の種類と割合は、生物種や環境によって驚くほど多彩です。例えば、生体膜の主要成分であるリン脂質には数百種類の分子種があり、その組成が生体膜の物性を決めています。この膜に含まれるリン脂質の種類と割合は環境や栄養状態によってダイナミックに変化し、それが菌糸の成長速度や酵素生産量を細かく調節しています。私は、膜脂質の変化がカビにどのような影響を与えるのかを探ることで、カビの生存戦略を分子レベルで解き明かそうとしています。現在、膜脂質の網羅測定と顕微鏡観察を組み合わせ、脂質一つひとつの役割を追跡しており、膜脂質の組成の違いがカビの細胞のカタチや酵素生産性に関わることが見えてきました。今後は、この知識をもとに膜組成を人為的にデザインし、従来株よりも短時間で多くの酵素や有用物質をつくる“次世代糸状菌”の開発を通して、資源循環型社会の実現に貢献することを目指しています。
教育内容
分子から現象へ―協働で深める糸状菌研究
本研究室の私のグループでは、糸状菌膜脂質研究を核に培養・分析の基礎を段階的に体験し、週1回のゼミで実験計画やデータの読み取り方を議論します。特に、「分子を起点に現象を考える姿勢」を身につけられるように、学内外の研究者と協力しながら、専門外の視点から助言を受ける機会を設けています。また、基礎となる生化学・統計学のミニ講座も随時行い、少しずつ研究生活になじめるようにしています。普段の実験トラブルの相談から発表資料のブラッシュアップまで協力し、主体的に学びを深める環境づくりを担います。学内あるいは国内学会でのポスター発表にも積極的に参加することを推奨し、成果を社会に届ける感覚を養えるようにします。これらの経験は大学院進学後に自立して研究テーマを切り拓く土台となります。さらに、共同研究者との定期セミナーでは課題を共有し、その場で新しい実験アイデアを議論するため、学生にも主体的な発言を奨励しています。こうした場を通じて、研究の幅を広げるだけでなく、人とのつながりを築く大切さも学べるようにしています。
共同研究や産学連携への展望
膜解析が切り拓く糸状菌プロセス最適化
糸状菌は発酵食品や酵素製造などに古くから利用され、近年はバイオマス資源を高付加価値化するバイオリファイナリーに貢献する可能性のある微生物としても研究が進んでいます。当研究室では、糸状菌における膜脂質組成と細胞機能の因果関係を分子レベルで解き明かす基礎研究に注力し、膜脂質組成が菌糸成長や酵素生産性に影響を与えることを明らかにしてきました。この知見は、①目的酵素の高生産株における膜脂質変動の解明、②培地・温度・pH操作が膜物性に与える影響評価、③膜脂質改変による新規耐性機構の探索、といった課題の理解に寄与すると考えています。共同研究では、まず学術的な課題設定を丁寧にすり合わせ、小規模試験培養で得たデータを相互に検証しながら研究を段階的に深める進め方を重視します。膜に着目した基礎情報が加わることで、従来見えにくかった生産性低下の原因を可視化し、株改良や培地設計の新しい手掛かりを得る足場が築けます。基礎研究で得られた成果を応用側の視点で再解釈することで、発酵プロセスの最適化や環境負荷低減といった共通課題への理解を深める一助となることを期待しています。
研究概要ポスター(PDF)
関連リンク
キーワード
キーワード1 : 微生物、糸状菌、カビ、生体膜、リン脂質、リピドミクス、細胞壁
キーワード2 : 食糧問題、資源活用