プロフィール
専攻 |
応用動物科学専攻
Department of Animal Resource Sciences
|
研究室 |
細胞生化学研究室
Laboratory of Cellular Biochemistry
|
職名 |
准教授 / Associate Professor |
一般の方へ向けた研究紹介
RNAの不思議を科学する
みなさんはRNAというものを聞いたことがあるでしょうか?DNAに比べると知名度は低いですが、私たちの体の中では無くてはならない働きをしています。コロナワクチンで有名になったmRNAもその一つです。私たちの体の中でも、ゲノムDNAからmRNA前駆体を経てmRNAは作られますが、DNAから作られたmRNA前駆体のうちの約95%の領域はイントロンと呼ばれる介在配列で、作られた後に除かれます。この過程をスプライシングと呼びますが、ヒトの遺伝子のほとんどで起きている現象です。私たちの細胞はこのように一見無駄に見える過程を経てmRNAを作り、そこからタンパク質を作っています。なぜこのような無駄をおこなうのか?このような過程を経ることで、限られた数の遺伝子から多種多様なタンパク質を生み出すことができ、必要なタンパク質を作る時期や場所を調節することができます。スプライシングは高い正確性を要する精密な過程ですが、遺伝子変異や外界からの刺激によって異常なスプライシングを起こすことがあり、ヒトでは疾患として現れる場合が多くあります。そのような疾患を「RNA病」と呼んでいます。私たちはスプライシングの基本的なメカニズム解析の解明だけではなく、RNA病における異常スプライシングの機構とその治療法の探索も推進しています。
教育内容
RNA生物学へようこそ
動物システム生命科学専修では、3年生時に主に哺乳類を対象とした講義と実習を行いますが、その中でRNAがどのように生命現象に関わっているのか、どのような機能を持っているのかを学習し、体験していただきます。その後私の指導する4年生には、RNAに関連したテーマで1年間研究を行い、卒業論文として発表していただきます。応用動物科学専攻の大学院に入学された後は、同様にRNAスプライシングやRNA病についてのテーマで研究を行なっていただきますが、必ずしもそこだけにとらわれることなく、RNA研究から派生した他分野の基礎生物学的研究も行います。また、RNAの異常により引き起こされるRNA病についても、その異常スプライシングのメカニズムの解析に加えて、スクリーニングシステムを構築することで、異常スプライシングを是正する治療薬候補の探索も行います。学部生や大学院生での他の学生や教員との研究生活を通して、分子生物学的、細胞生物学的な手技・手法を身につけることはもちろん、実験結果を正確に評価し、論理的に考えて研究を進め、自分の研究をきちんと他の人に伝えてディスカッションができるように指導しています。そして、アカデミアや他の分野を問わず、論理的思考と他者とのコミュニケーション能力を駆使して活躍する人材の育成を目指しています。
共同研究や産学連携への展望
RNA病治療への挑戦
ヒトの遺伝性疾患のうち、実に15%以上をスプライシング異常が占めています。このような遺伝性疾患の多くは、CRISPR等による遺伝子書き換えによる治療法が最終的な治療法ですが、ヒトのゲノム遺伝子改変には、倫理的な問題を含めて未だ多くの解決すべき問題点があり、かなりハードルが高いと思わざるを得ません。しかし、遺伝子そのものではなく、そこから発現するmRNA前駆体のスプライシングを調節することができれば、遺伝子を書き換えることなしに有害なmRNAの産生を防げたり、活性を持つタンパク質を産生できたりすることが可能となります。実際、私たちは筋ジストロフィーや家族性自律神経失調症といった疾患の異常スプライシング機構を解明し、それらの疾患での異常スプライシングの是正を含めた治療薬候補の探索を行うことで、候補化合物の同定を行なってきました。現在も、プロジェリア症候群やレット症候群といった疾患に対して、同様の研究を進めています。化合物のスクリーニング系の構築を行うことができますので、既存の薬や新規化合物のスクリーニングや、得られた候補化合物の最適化等で連携していただければ、未だ治療法のない疾患に対して、治療薬を見出すことにつながると考えています。
研究概要ポスター(PDF)
関連リンク
キーワード
キーワード1 : 動物、細胞、遺伝子発現、転写後調節、RNA、スプライシング、RNA病、アミノ酸
キーワード2 : 遺伝性疾患治療、RNA病、低分子化合物、アミノ酸