プロフィール

黒木 真理

黒木 真理

KUROKI Mari

専攻 水圏生物科学専攻 Department of Aquatic Bioscience
研究室 水産資源学研究室 Laboratory of Fisheries Biology
職名 准教授 / Associate Professor

一般の方へ向けた研究紹介

海と川に暮らす魚と人の共存をめざして

 海と川を行き来して一生を送るウナギやサケなどの回遊魚の資源生態に関する研究を推進しています。長距離移動する回遊魚の資源は、海洋環境の変動や漁業活動に加えて、生息地改変、餌資源供給に役割を担う陸域生態系の荒廃など、いずれかひとつの環境でも不具合が生じると直ちに危機的状況に陥ってしまいます。なかでも成育場に向かう脆弱な仔稚魚期と産卵に向かう繁殖期という大きな生活史イベントに際して必ず通過しなければならない関門が沿岸・河口域ですが、この狭い水域は人間活動が最も盛んな場所でもあります。この海洋・陸域生態系の連続性を担う沿岸・河口域を軸として回遊魚の研究を行っています。また、広い分布域をもつ回遊魚にとって種の持続可能性が厳しい分布限界域における地域個体群の維持機構の解明に取り組んでいます。地球温暖化による水温上昇や海流の変化といった気候変動が顕在化している今、それらの影響を最も鋭敏に受ける分布境界に生息する地域個体群の生態特性と環境応答を精査することで、将来分布域の中心部でも深刻化する恐れがある気候変動や生物種の応答を予見し、その知見を速やかに回遊魚の種全体の資源管理・保全方策に寄与することで、海と川に暮らす魚と人の末永い共存をめざしています。

教育内容

愛着をもって回遊魚の生態と進化を追究する

 私が研究を続けているのは、フィールド調査の現場で研究対象となる生物を直に観察し、その形態と生態、とりまく環境の美しさと厳しさに魅了されたためです。そこで、学生のみなさんにも知識として頭で理解するだけでなく、自らの実体験に根ざした学問を追究してもらいたいと思っています。研究室では、形態観察、硬組織の耳石という結晶の微量元素・安定同位体比分析に基づく環境履歴の復元、飼育実験による行動観察、ゲノム解析などを組み合わせて、回遊魚の生態・進化の解明に向けて取り組んでいます。私たちが研究対象種としている回遊魚の多くは、分布や利用が複数の国や地域にまたがる国際資源で、各国・各地域が協力して保全管理の方策を講じていくことが不可欠です。しかし、実際には局所的に乱獲されたり、コリドーである沿岸・河口・河川の環境悪化によって、資源水準が低下してしまうことも多いのが現状です。ステークホルダーと話し合い、その上で各国・各地域が足並みを揃えて資源管理や保全に協力体制を敷くのは、一筋縄ではいきません。そこで、生物多様性の保全や国際共有の資源管理が重要視されているなか、学術的価値のある研究課題を常に意識しつつも、マクロな視点と生き物に対する愛着をもって対話できる人材育成に重きを置いています。

共同研究や産学連携への展望

学際研究としての水圏科学と科学コミュニケーションの推進

 これまで生物学的研究は理系、社会・文化史的研究は文系の領域であり、双方からアプローチした学問は、黎明期にあります。そこで、文理の垣根を越えた水圏科学の学際研究領域を開拓したいと考えています。水圏生物のなかでも私がこれまで研究対象としてきたウナギは、ひときわ日本人を魅了する存在です。一方、恐れ忌み嫌う民族もあれば神聖な生き物と崇める民族もあります。これらの地域でも水圏生物の乱獲や環境破壊の問題は深刻で、水圏生物の文理融合的理解は、資源の保全管理、水産業経営の維持、文化継承にとって重要です。こうした複雑な問題は、自然科学分野の研究者だけでは解決するのは困難です。そこで、人文科学や社会科学などの研究者と共同研究プロジェクトを実施し、多角的視点をもって水圏生物を保全していくための問題解決に取り組み、水圏生物と人類が末永く共存できる豊かな社会の実現に向けて尽力したいと考えています。また、これまで研究者だけでなく子どもたちに水圏生物の魅力やそれらが生息する地球環境を伝えるための展示活動、科学絵本、Web図鑑などの企画・制作に携わってきました。今後、新たな科学コミュニケーション法やより効果的に発信する場をともに模索し、実践できる方々と協働したプロジェクトを展開したいと考えています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  回遊、生態、進化、海、川、環境、ウナギ、保全
キーワード2  :  環境問題、気候変動、食糧問題、水圏環境教育、学際研究、科学コミュニケーション