プロフィール

楠本 大

楠本 大

KUSUMOTO Dai

専攻 附属演習林 The University of Tokyo Forests
研究室 森林生物機能学研究室 Laboratory of Forest Functional Biology
職名 講師 / Lecturer

一般の方へ向けた研究紹介

樹木が他の生き物から身を守る方法を知る

 森林では、さまざまな生き物が樹木を餌資源として利用しています。生きた樹木に微生物や昆虫などが加害した場合、樹木の光合成や水分通導が低下し、ひどければ枯れてしまいます。その一方、樹木にも微生物の感染や昆虫の食害を抑制するための防御機構が備わっています。ですので、防御が十分に発揮できれば木が枯れるようなことはほとんどありません。樹木の防御機構の中でも特に誘導防御が重要です。誘導防御とは病虫害を受けたあとに高まる防御機構のことです。病傷部の近くで発現するもの、離れた部位でも発現するもの、発現までに時間のかかるもの、すぐに発現するものなど、いくつもの防御応答が組み合わさることで効果を発揮します。私は、「個々の防御応答がどのようなメカニズムで誘導されるのか?」や、「どの防御応答が病虫害の抑制に効果があるのか?」、「環境や生理状態によって防御機構の強度が変わるのはなぜか?」といったことを組織学や分析化学など複数のアプローチで多角的に研究しています。そして、樹木と他の生き物との間に横たわる「なぜ?」を樹木生理の側面からひも解くことで、生物間相互作用へのさらなる理解や、植栽樹木のより良い管理手法の確立に発展させることを目指しています。

教育内容

樹木の防御機構を体系的に学べる数少ない講義!

 演習林の複数の教員で実施する農学部講義「森林生態圏管理学」の一コマを担当しています。講義では、樹木の部位で異なる防御機構やそこでみられる防御応答の種類、防御応答を誘導するシグナル物質の機能などについて解説しています。動けない樹木だからこそ、生理的には緻密に柔軟に周囲の状況に合わせて変化していることを知ってほしいと思っています。研究においては野外実験を実施することが多いです。既知の知見に基づいて仮説を構築し、それを多角的に証明するよう綿密な実験計画を立てることを指導しています。樹木は草本と比べれば非常に扱いにくい材料です。そのため、まだ明らかにされていないことがたくさん残っています。学生にはこの困難さに打ち勝って、未知なる領域に果敢にチャレンジしてほしいと思っています。

共同研究や産学連携への展望

防御機構を活用した樹木管理や樹木成分増産への試み

 樹木の病虫害抵抗性が発揮される仕組みを研究しています。抵抗性に関わる内的・外的要因を明らかにすることで、樹木の活力を生かした病虫害の起こりにくい樹木管理を提案します。また、病気等の感染様式を明らかにして、防除計画を提案します。これまでも、樹木医や造園業者とは共同で研究調査を行ったり、行政の森林管理部署や市民団体に病虫害発生機構の講演を行ったりしています。過去には、殺菌剤等の効果や、樹幹注入剤の薬害について研究を行ったことがあります。また、視点を変えれば、樹木の防御物質には工業的に有用な化学物質が数多く含まれます。例えば、樹木が分泌するレジン・ゴム・漆などはエチレンやジャスモン酸といった植物ホルモンで増産され、これは樹木防御機構の誘導メカニズムを応用したものです。この他にも、樹木には医薬品や香料など有用な化学物質が数多く存在します。こうした有用化学物質の持続的、効率的な増産に防御の誘導メカニズムが生かされるはずです。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  樹木医学、樹病、植物病理、森林、微生物、昆虫、ナラ枯れ、マツ枯れ、二次代謝産物、抵抗性、細胞、顕微鏡、植物免疫、共生菌
キーワード2  :  森林病虫害、樹木管理、生物多様性、特用林産物、森林教育