プロフィール

野尻 秀昭

野尻 秀昭

NOJIRI Hideaki

専攻 附属アグロバイオテクノロジー研究センター Agro-Biotechnology Research Center
研究室 環境保全工学研究室 Laboratory of Environmental Biochemistry
職名 教授 / Professor

一般の方へ向けた研究紹介

微生物のマジカルな力の根源を探り環境浄化・抗生物質耐性菌問題に挑む

 現在、様々な化合物が環境を汚染し人類や地球環境に大きな脅威を与えていますが、多様な微生物の中には、環境汚染を引き起こす難分解性かつ有毒な有機化合物を分解する驚くべき能力を持っているものがいます。そのため、微生物は地球環境保全や循環型社会を支える縁の下の力持ちと言えます。私は、微生物が持つ「毒性物質を分解浄化する」という能力を、ゲノム・遺伝子、酵素、細胞、集団、生態系などの様々な切り口で解析しています。また、分解菌の実応用についても企業などと共同で取り組んでいます。分解菌の分解力の実体の徹底的解明と共に、分解菌の環境中での振る舞い(分解力の有無や生残性等)の解明を通して、分解菌を実環境でうまく使う・制御する技術開発に結びつけたいと考えています。また、分解菌を研究していると、人間が合成して数十年の農薬の分解菌が見つかることがあります。これはその物質の分解能力を微生物が速やかに進化させたことを示しており、分解菌研究は微生物機能の進化研究という側面もあります。抗生物質耐性菌が出現するメカニズムも、実は分解菌の進化メカニズムと共通な点が多く、抗生物質耐性菌問題の解決にも貢献したいと考えています。

教育内容

複眼的思考を実践できる環境微生物のエキスパートを育てます

 環境汚染物質分解能を持つ微生物を汚染現場で上手に使うためには、微生物が何故分解力を持つのか、その力はどのように発揮されるのか、分解力に影響する環境要因は何かなど、微生物の能力を丸裸にするような徹底的な理解が求められます。一方で、環境浄化はコストや周辺住民の理解など、社会的な活動とも密接にリンクした出来事であり、リスクコミュニケーションや様々な利害関係者間での調整、法令遵守なども求められます。抗生物質耐性菌についても、なぜ耐性菌が生まれるのか、どうすればその発生を抑え、問題を顕在化させないレベルに制御できるのかを考える上で、それに関わる微生物現象を正確に理解し、そのリスク評価を行うことが求められます。 研究室内での実験は微生物学・分子生物学・タンパク質科学・分子生態学等の知識を総動員して微生物の機能を徹底的に解明しますが、一方で背景となる社会状況等についての知識も合わせ持ってもらいたいと思っています。卒業生には、微生物のことをよく理解した上で、幅広い視野で環境浄化・微生物利用を考えられる人材になって欲しいと希望しています。

共同研究や産学連携への展望

自らが欲しい活性を持つ微生物を単離し利用・解析しませんか?

 有用な分解菌は自分で環境から単離する必要があります。一般的には集積培養で分解菌が取得されるケースが多いのですが、強い分解力を持った実用化可能な分解菌を取得するのはそれなりの時間とノウハウが必要です。私は、今までも多くの企業と一緒に相手方企業の自社工場排水中のターゲット物質の分解除去や、既に環境浄化に利用されている微生物のより効率的制御のための機能解析に取り組んできました。分解菌研究は、分解菌を取得するところから始まります。企業の方とは協力して使える微生物を取得し、企業ではそれを実応用していただくと共に、基礎的な機能解析は共同で行う形で協業が可能と思います。そのようなプロジェクトを是非一緒に作り上げたいと思います。
 一方、微生物はよく生体触媒と言われ、“自己増殖する触媒”として扱われる場合が多いと思います。このような認識は培養タンクの中で限られた種類の微生物を培養する場合は正しいことが多いですが、様々な生物的・物理的・化学的要因が複雑に絡み合う“環境”の中で微生物を使う場合には役に立ちません。これは腸内細菌叢の制御が難しいことからもわかります。環境浄化微生物の利用は、まさにこの困難さが問題となる分野です。複雑な環境・場で微生物を利用しようとする研究者の方と共同研究できればと期待しています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  微生物、細菌、代謝、分解、嫌気、好気、プラスミド、環境、生態系、タンパク質、構造、酸化還元酵素、酸素添加酵素、核様体、グローバルレギュレーター、転写ネットワーク、生育、負荷、スクリーニング
キーワード2  :  環境汚染、排水処理、環境修復、バイオレメディエーション、抗生物質耐性、耐性菌、ストックホルム条約