プロフィール

一般の方へ向けた研究紹介

森と人をつなぎ直すには?

 森林資源の過少利用が指摘されるなど、森林(自然)と人の関係の希薄化が進行しているといわれます。これの何が問題なのか、私は大きく二つに分けられると考えています。一つ目は、身近にある資源が活かされず、その代償として地球規模での資源の過剰利用につながっていること。二つ目は、災害リスクをモニタリングし対処する仕組みが働きにくくなることです。
 そこで、現代社会において新たな森林と社会の関係を構築することを目指し、①森林への親しみを育む自然アクセス制の研究、②森林と関わる文化の研究、に取り組んでいます。
① 自然アクセス制
 持続可能な資源利用や環境保全は、自然に親しむ人々がいて実践・支持されるものでしょう。その基盤となる自然とのふれあいは、誰もが自由にできるとは限りません。自然へのアクセスがどのように規制されるかは、地域によって大きく事情が異なります。その制度内容や経緯について分析し、より多くの人が自然にふれあえる制度設計を研究しています。
② 森林と文化
 文化のあり方によって、森林とのつながり方は変わります。伝統的に継承されてきた文化には、森林を持続的に利用し、かつ森林資源の長所をうまく引き出す知恵がみられます。また新たに森林資源に親しむ活動も生まれてきています。森林と関わる文化への理解を深め、森林とつきあう文化を醸成していく途を探っています。

教育内容

頭だけでなく、足を運び体を動かし、知性を総動員して考えてみよう

 ヒトの知性とは何でしょう?教課において示される問題を解けることでしょうか。たしかにそれも一つの知性です。ですが一つでしかありません。私たちは現実世界でさまざまな情報を知覚し、それに対処しています。そこで働いているのは、言語に置き換えられる情報だけではないはずです。むしろ、それ以外のものが多いでしょう。
 森林と人の関係もまさに、容易には言語化できないもので構成されています。現地に身を置いて身を置いて見聞きすること(フィールドワーク)は、最も重視すべきアプローチです。実際に現地の人と一緒に活動することで、知見を得ることを推奨したいです。フィールドは、文献ではわからない、あるいは漏れていたことが必ずあるフロンティアなのです。
 自分が知りたいと思っていること=研究テーマも、なかなか言語化が難しかったりします。だからと言って、すでにある分かりやすい問題に逃げるのは推奨しません。自分自身の関心にとことん向き合いましょう。研究の方法も、自分のテーマに合わせて一から考える必要もあるでしょう。無から有をうむ苦しみはありますが、知を楽しむ過程でもあります。そしてその経験を通じて、ヒトとして、また人としての自身の知性を大きく育むことができると期待しています。

共同研究や産学連携への展望

森林に親しむ文化をつくり、広めませんか?

 いま、日本の森林は木材をはじめとした森林資源が十分に活用されていません。その分、主に海外から輸入される資源に依存しています。このことは、必要以上にエネルギーを使って物資を調達し、場合によって生産国に大きな環境負荷を与えていることにもつながっています。
 日本の森林資源がもっと暮らしに活用されるようになれば、全球規模の問題に改善に近づきます。日本の森林からは、さまざまな素晴らしい恵みが得られる可能性がありますが、ほとんど認知されていないのが現状です。伝統的な技術で引き出される森林の恵みの素晴らしさや、現代社会に合った新しい森林の恵みの生かし方を多くの人に知ってもらうことが、「はじめの一歩」となります。
 森林を舞台にした企業研修や、ものづくりのワークショップを開催することは、「はじめの一歩」になるはずです。こうした活動を積み重ねることで、身近な森林に愛着を感じ、暮らしの中に森林の恵みを取り入れる文化が広がり、森林と人は「良き隣人」として付き合っていけるようになるのではないでしょうか。森林に全く馴染みのない人が、森林に親しめるようになるプログラムづくりを、企業や一般の皆さんと一緒に取り組んでいきたいと考えています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  山菜、キノコ、薪、炭、木工品、入会林野、コモンズ、民俗、歴史、ウェルビーイング
キーワード2  :  山村の過疎化、伝統文化の消失、森林管理、QOL、自然災害、南北問題