プロフィール
一般の方へ向けた研究紹介
環境化学物質を感知して応答する生体防御機構と、それが生体で果たす機能を解明する
日本では現在、長寿・高齢化社会の実現により、文化的・科学的な観点から世界的に大きな注目を集めています。「医食同源」や「薬食同源」という考えに基づいて、食品中に含有する有効成分や、日本人に特有の遺伝的要因が健康に寄与していると考えられています。一方で、日本人の死因第1位であるがんの発症においては、食品や食習慣が喫煙と並ぶ主要な発がん要因として指摘されています。私たちは生活環境に存在する化学物質に加えて、食品や医薬品を摂取することによって、日常的に多種多様な化学物質に複合的に曝露されています。このような環境汚染物質・食品・医薬品など、私たちの身の回りにある化学物質を総称して“環境化学物質”と捉え、ヒトがこれらに曝露されたときに起こる生体応答機構について研究を行っています。細胞レベルでは、環境化学物質が転写因子を活性化することで、遺伝子の発現がダイナミックに促進され、生体防御機能が発揮されます。しかし、この生体応答機構が破綻すると、がんなどの疾患に関与することもあります。私たちは、疾患の発症に関わるような環境要因と遺伝要因の両面に注目して、環境化学物質とそれに応答する生体防御機構に着目した研究を行っています。医薬品の力を借りながらも、生体が本来備えている機能を最大限に活用して、健康を維持できる社会の実現を目指しています。
教育内容
生体や食品に関連する物質を化学構造に基づいて理解する
生物の講義では、DNAの転写からRNAへの遺伝情報、さらにRNAの翻訳によってタンパク質が合成されるという、一方向の流れによる分子生物学の基本概念「セントラルドグマ」を学びます。これが1958年に提唱された後、2000年にはヒトゲノム計画により、ヒトの遺伝子情報が解読されました。現在では、遺伝子の転写を担う転写因子(タンパク質)の化学的な修飾が、異物代謝酵素をコードする遺伝子の発現(転写)を制御することが明らかになっています。異物代謝に関わる多くの遺伝子には個人差があり、これが環境化学物質に対して個人差が生じる要因の一つと考えられます。アルコール摂取によるアジアンフラッシュ体質がまさにこの例です。農学部の講義では「食品化学」を通して、私たちの身近にある“食と健康”に関連する生体の代謝物質や食品成分について、化学構造に基づいて学びます。
共同研究や産学連携への展望
“毒物”、“食品”、”医薬品”という既存の役割にとらわれずに生体防御機構に対する機能をみる
世界で最も広く処方されている医薬品の一つである抗血栓薬ワルファリンは、かつて牧場でネズミ駆除剤として使用されていました。また、食中毒の原因となるボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素(タンパク質)は、脳血管障害後遺症などの治療に用いられています。さらに、かつて催眠鎮静薬として使用され、妊婦の服用により胎児に催奇性を引き起こしたサリドマイドは、近年の創薬開発において“Molecular Glue分子接着剤”の“warhead活性部位”として応用されています。このように、“毒”が“薬”へと転用される事例は数多く存在します。少量の毒物がホルミシス効果を発揮するように、“毒”や“薬”という既存の役割にとらわれることなく、化学物質の化学的特性に基づいて、生体防御機構に対する生物学的作用に着目して研究を進めています。
研究概要ポスター(PDF)
関連リンク
キーワード
キーワード1 : 環境化学物質、転写因子、生体応答、異物代謝
キーワード2 : 機能性食品、創薬、個人体質