プロフィール

田中 智

田中 智

TANAKA Satoshi

専攻 応用動物科学専攻 Department of Animal Resource Sciences
研究室 細胞生化学研究室 Laboratory of Cellular Biochemistry
職名 教授 / Professor

一般の方へ向けた研究紹介

胎盤形成機構の解明にチャレンジ

 カモノハシなどのごくまれな例外を除く哺乳類は、胚(受精卵)が子宮に着床すると胎盤が作られ、母親の血液から酸素や栄養分を受け取って子(胎子)に渡すことで子宮内での生存を保証し、分娩までの成長を促します。胎盤は特殊な機能を持つように分化した数種類の細胞で構成されますが、その多くを占める栄養膜細胞(トロホブラスト)と呼ばれるグループの細胞は受精卵から作り出されます。つまり、胎子は、自分自身の生存と成長に必要な胎盤という臓器を、自ら準備するのです。胎盤がうまくできない場合や作られても正しく働かない場合には、胎子の成長が抑えられたり、分娩の前に死んでしまったりします。
 私たちは、マウスの胚から樹立された培養細胞株であるトロホブラスト幹細胞(TS細胞)を用いた研究を展開しています。TS細胞は、子宮内で進行するトロホブラストの分化を体外で再現できるので、ある遺伝子が分化の過程でどのように制御され、機能するのかを、遺伝子レベルやタンパクレベルで解析することを容易にします。そのような研究から、ヒトの妊娠時疾患の原因解明や予防・診断にもつながる基礎的な知見を得ることができると期待しています。

教育内容

予想外を楽しめ

 近年では、同じ研究室に所属する片岡准教授が専門のRNA生物学と融合させ、TS細胞における選択的スプライシングの重要性を問う研究にも焦点を当てています。各学生の研究進捗状況は随時個人的に報告を受けその都度相談もしますが、2-3ヶ月おきに担当が回るプログレスレポートで研究室全員でも共有し、互いの実験内容の理解を深めると共に意見の交換を行います。予想や期待と異なる結果が得られた時こそ、「よくわからない」と思考停止するのではなく、なぜその結果になったのかいくつかの仮説を立て、それを検証する方法を考え実行する能力を培ってほしいと考えています。「予想外」は「新発見の芽」です。また個人的な趣味から、「美は細部に宿る」をモットーに、プレゼンテーションスライドやグラフの作り方などにも細かく口を出すようにしています。
 出身者の修了後の道はさまざまですが、たとえば近年博士号を取得した修了生は、国内大学の特任助教、アメリカの博士研究員(ポスドク)、次世代シーケンスとバイオインフォマティクスサービスを提供する国際企業のテクニカルセールススペシャリストなど、各自の興味とスキルに合わせた進路を選択しています。

共同研究や産学連携への展望

TS細胞のポテンシャルをもっと引き出したい

 最近の研究で、TS細胞の分化に影響を与える低分子量化合物のスクリーニングを行い、分化誘導条件でも分化を抑制する化合物2種と、ある種の栄養膜細胞への分化を促進する化合物1種を同定しています(https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2022.10.085)。これらの化合物の作用機序は未だ明らかにできていませんが、その解明は、胎盤形成を阻害する薬の開発にもつながる可能性があると考えています。一方、他の研究では、TS細胞の3D培養が可能な培養条件を確立しました(https://doi.org/10.1262/jrd.2020-119)。この培養条件で細胞塊を形成させて分化誘導すると、従来の2D条件に比べ、分化栄養膜細胞のマーカー遺伝子の発現がより上昇しており、分化誘導により適した条件である可能性が示唆されます。この技術を発展させ、胎盤を模した小型の胎盤オルガノイド(ミニ胎盤)の作出を目指しています。これらの研究を共に発展させ、応用を考える仲間を求めています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  動物、哺乳類、胎盤、栄養膜細胞、トロホブラスト、幹細胞、TS細胞、着床、妊娠、胚、胎子
キーワード2  :  受胎率低下、着床異常、妊娠異常、妊娠時疾患