発表のポイント

  • 営農型太陽光発電水田における微気象、収量、品質への影響を長期的に調査した初めての研究です。
  • 営農型太陽光発電水田では水稲収量が23%減少する一方、総収益は通常の稲作の5倍以上に達する可能性を推算しました。
  • 太陽光発電と稲作の両立による高収益水田農業の実現に向けた重要な知見を提供し、持続可能な農業の実現と地域振興への貢献が期待されます。

営農型太陽光発電水田における太陽光パネル下の水稲生産

発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科の加藤教授らによる研究グループは、営農型太陽光発電(注1)が水稲生産に与える影響を、6年間にわたるフィールド実験によって明らかにしました。本研究が対象とした営農型太陽光発電では太陽光パネルが水田の27%を覆い、食糧と電力の同時生産を目指しました。実験の結果、水稲収量が平均で23%減少したものの、総収益は従来の稲作の5倍以上に達しました。しかし白未熟粒(注2)が増加して整粒歩合が低下する傾向が見られ、玄米中のタンパク含量やアミロース含量が高くなることも確認されました。研究結果は、営農型太陽光発電水田において収量低下を抑え、品質を安定させるための適切な栽培管理技術の開発が急務であることを示しています。この研究は、食糧生産と再生可能エネルギー生産の融合を目指した持続可能な農業の発展に寄与するものであり、地域農業の新しいモデルとなる可能性を秘めています。

発表内容

〈研究の背景〉

コメは、世界人口の半分が主食としており、2050年までに97億人に達すると予測される世界人口を支えるためには、これまで以上の生産量の増加が求められています。一方、再生可能エネルギーの需要増加に伴って世界各国で太陽光発電設備の設置が急速に進んでおり、農業活動と再生可能エネルギー生産活動との間で軋轢(あつれき)が生じる例も現れています。そこで土地利用をめぐる持続可能な解決策として注目されているのが、農業と太陽光発電を組み合わせた営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)です。営農型太陽光発電は、作物栽培とエネルギー生産を同じ土地で行い、農家の収益向上にも寄与します。しかし、太陽光パネル設置による、作物へふりそそぐ日射量の減少(部分的な日陰)による収量低下が懸念されており、特にイネのような穀物は野菜に比べて日射減少の影響を受けやすいことが示唆されています。本研究では、営農型太陽光発電を実施している水稲生産現場(茨城県・筑西市)において、6年間にわたって日射量や気温、水稲の収量や品質を調査しました。

〈研究成果と展望〉

これまでの営農型太陽光発電水田に関する研究は12年の短期間による調査報告が中心であったのに対し、長期フィールド実験を通じて技術的課題と可能性を包括的に分析した点で本研究は新規性が高いと評価されます。本研究の結果、営農型太陽光発電を水田農業に適用し、稲作と電力生産を統合することで、農家の収益向上に大きく寄与する可能性を示しました。具体的には、営農型太陽光発電水田では水稲収量が平均23%減少したものの、発電収益によって従来の稲作単作の5倍以上の総収益が得られることが確認されました。また、太陽光パネル設置による水稲群落の微気候の変化は、低水温による生育遅延や穂数、稔実歩合の減少を通じて収量の減少を引き起こすことが明らかになりました。さらに、白未熟粒の増加による玄米外観の悪化や食味低下に関係する玄米タンパク含量とアミロース含量の増加を引き起こすことも確認されました(図1)。

持続可能な社会の形成において、再生可能エネルギーの安定生産と農業生産・食糧安全保障の高度な両立がこれまで以上に重要課題となります。本研究結果から、今後は営農型太陽光発電水田に適した栽培管理技術の開発や新たな水稲品種開発に取り組んでいくことが望まれます。

1 本研究における営農型太陽光発電水田(左・中央)と6年間の長期試験における水稲収量(右)。

 

右図のうち、nsは水田間で有意差が無いことを、*** 0.1%水準で有意であることを示す。カッコ内の数字は慣行水田に対する営農型太陽光発電水田の収量の相対値。

 

発表者・研究者等情報 

東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻
タン チュン ハオ 博士課程
岡田 謙介  研究当時:教授 
山崎 裕司  助教
加藤 洋一郎 教授

論文情報

雑誌
Field Crops Research
題名
Impacts of agrivoltaic systems on microclimate, grain yield, and quality of lowland rice under a temperate climate
著者名
Chun Hau THUM, Kensuke OKADA, Yuji YAMASAKI, Yoichiro KATO*
DOI
10.1016/j.fcr.2025.109877
URL
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S037842902500142X

研究助成

本研究は、一般社団法人ヤンマー資源循環支援機構「食料生産とエネルギー生産両立のためのソーラーシェアリング水田設計(課題番号:KI0211027)」の支援により実施されました。

用語解説

  • (注1)営農型太陽光発電
    農地に支柱を立てて上部に太陽光パネル等の太陽光発電設備を設置し、その下で農業を行うシステムで、我が国では別名ソーラーシェアリングとも呼ばれます。
  • (注2)白未熟粒
    乳白粒、心白粒、腹白未熟粒、背白粒、基部未熟粒など胚乳に白濁をもつ未熟粒の総称で、白未熟粒が増加するとコメの等級に影響します。

問合せ先

(研究内容については発表者にお問合せください)

東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻
教授 加藤 洋一郎(かとう よういちろう)
Tel:03-5841-8045 E-mail:ykato@g.ecc.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム 総務・広報情報担当(広報情報担当)
Tel:03-5841-8179, 5484  FAX:03-5841-5028
E-mail:koho.a@gs.mail.u-tokyo.ac.jp

関連教員

加藤 洋一郎