発表者

深野 祐也(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
曽我 昌史(東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻 助教)

発表のポイント

  • 侵略的外来種に対する市民の関心がどのように時間的・空間的に変動し、その変動に何が影響するのかを、インターネットの大量の検索データを解析することで定量化しました。日本の侵略的外来種31種を対象に解析した結果、外来種の発見報告や外来種の分布、外来種の危険性、メディアによる報道などが検索量に影響することが分かりました。
  • これまで、生物や環境に対する市民の関心を調べるには、労力・費用のかかるアンケートが主な手段でした。本研究は、インターネットの検索データを用いることで、生物への関心の動態とそれに与える生態・社会的な要因を国土スケールで明らかにすることに成功しました。
  • 侵略的外来種を抑制し被害を軽減するためには、専門家だけではなく、一般市民の方々の外来種の侵入・駆除に対する関心や協力が不可欠です。本研究では、外来種に対する市民の関心を簡易的に、大規模かつ経時的に把握する分析手法を提案しました。この手法は、さまざまな環境問題に関わる行政や市民団体、研究機関にとって、より効果的な普及啓発や広報活動に役立つ可能性があります。

発表概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科 附属生態調和農学機構の深野祐也助教と同 生圏システム学専攻の曽我昌史助教は、インターネットの検索データを解析することで、外来種に対する市民の関心の時間的・空間的な動態を定量化し、関心を引き起こす要因を明らかにしました。外来種の分布拡大を抑制し被害を低減するためには、専門家だけではなく、一般市民の外来種への関心を高める必要があります。しかしながら、これまで市民の関心を大規模に経時的に定量化する方法は限られていたため、市民の関心がどのように変化するのか、またその変化がどのような要因によって引き起こされているのかはほとんどわかっていませんでした。本研究グループは、市民の関心の指標として、インターネット(Google)の検索量に注目し、いつ・どこで侵略的外来種が検索されやすいかを解析しました。国内31種の侵略的外来種(注1)を対象とした解析によって、各県での外来種の分布と、その外来種を報道した各県の地方新聞の記事数の両方が、その地域での外来種の検索量と相関していることがわかりました。また、2017年に全国で生じたヒアリの連続した発見報告に注目し、ヒアリの検索量の時空間的変化を詳細に解析したところ、公式な発見報告があるとその県のみで劇的に検索量が増加することがわかりました。しかしその一方で、何度も同じ地域で発見報告があるとその増加の仕方が緩やかになる(次第にあまり検索されなくなる)こともわかりました。これらの結果や手法を用いることで、外来種問題をはじめ、絶滅危惧種や生物多様性などさまざまな環境問題の普及啓発の効率化につながると期待されます。

発表内容


図1 研究の概略図


図2 日本の侵略的外来種31種を対象にした結果(上・左下)とウチダザリガニの例(右下)
上図のβは標準偏回帰係数で、各説明変数の相対的寄与度を示す。3つの矢印全てで、統計的に有意である(P < 0.001)。左下図は、31種の外来種を対象に、外来種が分布している県と分布していない県におけるその外来種に対する相対的な検索量の比較を箱ヒゲ図と散布図で表したもの。濃い実線は中央値を示す。


図3 ヒアリの発見報告に対する、検索量の空間的・時間的推移

 侵略的外来種は、侵入先の生態系だけでなく、農林水産業や人間の健康に深刻な社会経済的な被害をもたらします。そのため、侵略的外来種の分布拡大を阻止し、すでに定着した外来種の人間や生態系への被害を抑制し、効果的に防除を進める必要があります。これらのことを行う上で必要不可欠なのが、侵略的外来種に対する市民の関心や認知度の向上です。しかし、これまで生物への市民の関心や認知度を計測する手法はアンケートなどに限られており、大規模に外来種への関心を定量化することは困難でした。そのため、どんな生態学的な要因(外来種の分布や生物学的な特徴)や社会的な要因(報道数など)が、どのように市民の関心の変動に影響しているかがわかっていませんでした。
 本研究グループは、この問題を解決するために、Googleが提供するウェブサービスのひとつであるGoogle Trendsに注目しました。Google Trendsでは、任意の地域・任意の期間を指定することで、特定のキーワードの 「相対的な検索量」の推移や地理的なばらつきを調べることができます。これで得られる相対的な検索量を外来種への関心の指標とし、国立環境研究所が公開する外来種の分布情報や生物学的な特徴、外来種名を含む新聞記事数やオンラインニュースの量などとの関係を統計的に解析しました(図1)。
 本研究では大きく分けて2つの分析を行いました。まず、侵略的外来種全体に共通する市民の関心のパターンを理解するために、日本の主要な侵略的外来種31種を対象に分析を行いました。その結果、外来種が分布している県ではその外来種の報道数が増え、報道数が多くなると検索量も増加しやすいことがわかりました(図2)。加えて、侵略的外来種のうち健康へのリスクがある種(セアカゴケグモやカミツキガメ)は、より広い地域で報道され、検索されやすいこともわかりました。一方で、外来種の侵入からの年数や、経済的・生態的なリスクの有無は検索量に影響していませんでした。
 2つめの分析では、2017年から日本の各県で連続的に発見報告が相次いだヒアリの侵入に注目し、検索量の時間的・空間的な変動に与える影響を詳細に分析しました。その結果、(1)ヒアリが発見された県では局所的に検索量が急激に増加するが、隣接県ではほとんど増加しない。(2)発見県であっても何度も同じ県で発見されると、検索量の増加が起こりにくくなる(図3)。(3)この低下は、報道数や報道量の低下に加えて、受け手側の市民の反応が鈍くなったことで起こったことが示唆される、ということなどがわかりました。結果をまとめると、インターネットの検索量に注目することによって、さまざまな外来種への市民の関心が時間的・空間的に大きく変動すること、そしてこの変動を生み出すのは、分布やリスクなど外来種自身の生態的な特徴と、メディアによる報道であることが示されました。
 本研究の成果は、外来種管理を考えるうえで、二つの重要な点を浮き彫りにしています。まず、市民への外来種に関する普及啓発を行う上で、メディアが重要な役割を持つという点です。外来種対策に関わる行政や研究機関は、メディアと密接にかかわりあい、正確な情報を適切に発信することで市民の関心を高めることができると示唆されます。次に、外来種が侵入した地域の近隣(近い将来、外来種の侵入が起こりうる地域)では、必ずしも外来種に対する市民の関心は高くないという点です。ヒアリのケースのように特定の県での発見が大々的に報道される場合、その県では検索量が急激に増加しましたが、近隣の県では大きく増加しませんでした。侵入とその後の分布拡大のリスクを考える場合には、発見県はもちろん近隣県の市民にも啓発できる方法を自治体やメディアと一緒に探る必要があります。
 最後に、本研究で提案した分析手法は、どのような生物・地域にも適用可能な簡単な手法です。今後は、さまざまな外来種への普及啓発事業の効果測定や、絶滅危惧種やデング熱など局所的な感染症などを対象にした解析を行うことで、より効果的な外来種管理や生物多様性の保全、感染症の予防につながることが期待されます。

 

発表雑誌

雑誌名
Biological Invasions
論文タイトル
Spatio-temporal dynamics and drivers of public interest in invasive alien species.
著者
Yuya Fukano*, Masashi Soga(*責任著者)
DOI番号
10.1007/s10530-019-02065-y
論文URL
https://link.springer.com/article/10.1007/s10530-019-02065-y

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
助教 深野 祐也(ふかの ゆうや)
〒188-0002 東京都西東京市緑町1-1-1
Tel: 070-6442-9528
E-mail: yuya.fukano<アット>gmail.com <アット>を@に変えてください。

用語解説

  • (注1) 侵略的外来種
    解析対象にした31種の外来種は、日本生態学会が定めた日本の侵略的外来種100種と外来生物法で指定される特定外来生物から、国内外来種、外来種としてではない目的で検索されやすい種(ブラックバス・ヤギなど)、検索量の少ない種などを除いて選定した。アライグマ、ヌートリア、マングース、ガビチョウ、ソウシチョウ、カミツキガメ、タイワンスジオ、ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)、ウシガエル、カダヤシ、ソウギョ、ブルーギル、アメリカシロヒトリ、アルゼンチンアリ、ウリミバエ、カワヒバリガイ、ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)、アレチウリ、オオキンケイギク、カモガヤ、セイタカアワダチソウ、ニセアカシア、ヒメジョオン、ホテイアオイ、アカボシゴマダラ、クビアカツヤカミキリ、ヒアリ、アカカミアリ、ツマアカスズメバチ、ウチダザリガニ、セアカゴケグモの31種。