発表者
磯部 一夫(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 助教)

発表のポイント

  • 土壌に生息する多くのバクテリアの窒素施肥に対する応答は進化系統的に保存されていることを明らかにしました。
  • 土壌に生息する多くのバクテリアは異なる環境下においても窒素施肥に対して一様の反応を示すことを明らかにしました。
  • 土壌に生息するバクテリア群集の窒素施肥に対する応答を予測することができるようになることが期待されます。

発表概要

 バクテリアはわずか1グラムの土壌に数千種もいると推定されています。この多様さゆえに土壌に生息するバクテリア群集の環境応答を予測することは非常に困難です。今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の磯部一夫助教はカリフォルニア大学アーバイン校の研究チームとともに、バクテリア群集の“窒素施肥”に対する応答についてメタ解析を行い、その応答が進化系統的に保存されている(進化系統的に近いバクテリアは類似の応答を示す)ことを明らかにしました。さらに群集中の多くのバクテリアは異なる環境下においても窒素施肥に対して一様の反応を示すことを明らかにし、それらの系統を特定しました。以上の結果は、進化系統情報を用いることで窒素施肥に対してバクテリア群集の組成がどのように変化するのかを予測できる可能性があることを示しています。

発表内容


図1 土壌のバクテリア群集の窒素施肥に対する応答は進化系統的に保存されている
異なる環境における各バクテリアの応答の平均値を進化系統樹にマッピングした図。青は窒素施肥したことで存在量が増えるバクテリア、赤は減るバクテリア。増えるバクテリアと減るバクテリアが進化系統樹上でランダムに分布しているのではなく、それぞれまとまって分布していることがわかる。これらの系統群は環境条件(生態系や窒素施肥量)が異なったとしても窒素施肥という環境変化に対し一様の応答を示すと考えられる。

 土壌に生息する豊富で多様なバクテリア群集は動植物遺体の分解、物質循環の形成、植物への養分供給、炭素や窒素の貯蔵などの機能を担い、生態系を支えています。そのため生態系が環境の変動に対してどのように応答するのかを理解するためには、土壌に生息するバクテリア群集の環境応答を理解し、予測することが重要です。しかしバクテリアはわずか1グラムの土壌に数千種もいると推定されるほど多様であるために、土壌に生息するバクテリア群集の環境応答を予測することは非常に困難です。
 今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の磯部一夫助教はカリフォルニア大学アーバイン校の研究チームとともに、バクテリア群集の環境応答は進化系統的に保存されている(進化系統的に近いバクテリアは環境の変動に対して類似の応答を示す)という仮説を立て、検証しました。ここでは窒素施肥に対する応答に着目しました。
 世界13地点(森林、農耕地、草地)で行われた窒素施肥実験において得られたバクテリア群集組成のメタ解析を行いました。それぞれの地点で、群集内の各バクテリアの窒素施肥に対する応答(存在量が増えるか減るか)を算出し、その応答が進化系統的に保存されているかどうかを検証しました。続いて、13地点のうち多くの地点で検出されたバクテリアに着目し、それらバクテリアの応答が、異なる環境下でも一様の応答を示すか、環境毎に異なる応答を示すかを検証しました。
 その結果、バクテリアの窒素施肥に対する応答は、検証した13地点のうち12地点において進化系統的に保存されていることを示しました。続いて、すべての地点のデータを合わせた際に見られる窒素施肥に対する応答の系統パターンは各地点で見られた応答の系統パターンと類似していることを見出しました(図1)。このことから、多くのバクテリアは環境条件(生態系や窒素施肥量)が異なったとしても窒素施肥という環境変化に対し一様の応答を示すと考えられ、それらの系統を特定することができました。以上の結果は、進化系統情報を用いることで窒素施肥に対してバクテリア群集の組成がどのように変化するのかを予測できる可能性があることを示しています。
 今後は、バクテリア群集組成の環境変化に対する応答からバクテリア群集が担っている生態系機能の環境応答までを含めて、理解し、予測することができるようになることが期待されます。
 本研究は、日本学術振興会の海外特別研究員事業ならびに科学研究費助成事業の支援を受けて行われました。

 

発表雑誌

雑誌名
Nature Communications
論文タイトル
Phylogenetic conservation of bacterial responses to soil nitrogen addition across continent
著者
Kazuo Isobe*, Steven D. Allison, Banafshe Khalili, Adam C. Martiny, Jennifer B.H. Martiny*(corresponding authors*)
DOI番号
10.1038/s41467-019-10390-y
論文URL
https://www.nature.com/articles/s41467-019-10390-y

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 土壌圏科学研究室
助教 磯部 一夫 (いそべ かずお)
Tel:03-5841-5140
E-mail:akisobe<アット>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp <アット>を@に変えてください。
研究室URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/soil-cosmology/