発表者
長谷 知輝(研究当時:東京大学大学院農学生命科学研究科 修士)
宍戸  駿(研究当時:東京大学大学院農学生命科学研究科 修士)
山本  宗(研究当時:東京大学大学院農学生命科学研究科 修士)
山下  玲(研究当時:東京大学大学院農学生命科学研究科 修士)
貫間 春圭(東京大学大学院農学生命科学研究科 修士)
平   修(福島大学農学群食農学類 教授)
豊田  集(東京大学大学院農学生命科学研究科 研究員)
阿部 啓子(東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授)
浜口  毅(金沢大学附属病院 講師)
小野賢二郎(昭和大学医学部 教授)
篠原もえ子(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科 特任准教授)
山田 正仁(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科 教授)
小林 彰子(東京大学大学院農学生命科学研究科食の安全研究センター 准教授)

発表のポイント

  • ポリフェノール(注1)の一種、ロスマリン酸を摂取すると、脳内においてドーパミン関連のモノアミン(注2)の濃度が上昇し、それらがアミロイドβ(注3)の凝集を抑制することを明らかにしました。
  • ポリフェノールの新たなアルツハイマー病予防機序を見出しました。
  • 現在アルツハイマー病を根治する薬は存在しないことから、新たな作用機序の発見は、予防や治療法の確立に繋がることが期待されます。

発表概要

 現在アルツハイマー病には根本的な治療薬がなく、予防が重要視されています。食品成分による予防効果については多くの情報があるものの、科学的エビデンスが得られているものはほとんどありません。東京大学大学院農学生命科学研究科の小林彰子准教授と金沢大学大学院医薬保健学総合研究科山田正仁教授、福島大学平修教授らの研究グループは、ポリフェノールの一種、ロスマリン酸を摂食したマウスの脳内において、ドーパミンをはじめとするモノアミンの濃度が上昇し、それらがアルツハイマー病の主病態であるアミロイドβ(Aβ)凝集を抑制することを、見出しました(図1)。ロスマリン酸の摂取により、脳内で合成が活性化される成分(モノアミン)がAβ凝集を抑制するという新たな機序の発見は、ポリフェノール摂取によるアルツハイマー病予防戦略に新たな知見を与えるものといえます。

発表内容


図1 ロスマリン酸の作用機序


図2 ドーパミン代謝経路 
(青:代謝酵素, 赤:ロスマリン酸摂食群で濃度上昇したもの)


図3 ドーパミン合成部位と投射先、および合成部位における代謝酵素の発現

【研究の背景】
 近年世界でアルツハイマー病患者が増加し、その対策は急務となっています。アルツハイマー病は脳内に毒性の高いAβペプチドの凝集体等が蓄積することにより、神経細胞死などが生じ、記憶や認知力が低下する病気です。既存のアルツハイマー病治療薬は症状を緩和する対症療法に過ぎず、根本的な治療予防に繋がる新たな抗アルツハイマー病戦略が求められています。
【研究の内容】
 金沢大学大学院医薬保健学総合研究科山田正仁教授らは、ポリフェノールのAβ凝集抑制作用に着目し、アルツハイマー病モデルマウスで高いAβ凝集抑制活性をもつポリフェノールとしてロスマリン酸を見出してきました。ロスマリン酸は試験管内においても高いAβ凝集抑制活性を示しますが、脳内への移行度は比較的低いため、直接Aβ凝集抑制をする以外にもマルチな作用を介して効果を発揮している可能性が考えられました。そこで、ロスマリン酸を摂食し、脳内Aβ凝集が抑制されたアルツハイマー病モデルマウスの脳をDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析にて精査したところ、ドーパミン作動性シナプス経路の活性化が示唆されました。ドーパミンは高齢者やアルツハイマー病患者の脳内において減少していること、またドーパミン神経伝達の向上により認知機能障害が改善されることが報告されています。そこで実際にロスマリン酸を摂食した際にこれらの経路が活性化するかを検討したところ、11日間の摂食で大脳皮質において、ドーパミンをはじめとする4種のモノアミンが上昇していました(図2)。またこれらは、ドーパミンの合成部位である黒質および腹側被蓋野において、代謝経路に位置するMAOBおよびCOMTの発現を低下させることにより、投射先の大脳皮質において濃度を上昇させていることが分かりました(図3)。試験管内でのAβ凝集抑制試験では、ロスマリン酸摂食により脳内濃度が上昇した4種のモノアミンすべてAβ凝集活性を示しました。

【意義と今後の展望】
 アルツハイマー病に対する新薬の開発が世界中で行われていますが、これまでのところ成功例はありません。本研究では、ロスマリン酸の摂取により脳内でドーパミン関連物質が活性化され、それらがAβ凝集を抑制するという、新たなメカニズムを見出しました。これらのモノアミン類はαシヌクレイン(注4)の凝集抑制も報告されており、アルツハイマー病型以外の認知症での効果も期待されます。本研究は、ポリフェノールを摂取することにより、アルツハイマー病が予防される可能性を新たな切り口で示し、ポリフェノール摂取の意義を科学的に証明することができた成果といえます。なお、金沢大学大学院医薬保健学総合研究科山田正仁教授らの研究グループは、現在ロスマリン酸含有レモンバーム抽出物を用いた認知症予防介入試験を実施中です(http://neurology.w3.kanazawa-u.ac.jp/resrchwrk/768/)。
 本研究は、文部科学省科学研究費基盤B、内閣府戦略的イノベーションプログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術「次世代機能性農林水産物・食品の開発」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受けて実施されました。

発表雑誌

雑誌名
Scientific Reports
論文タイトル
Rosmarinic acid suppresses Alzheimer’s disease development by reducing amyloid β aggregation by increasing monoamine secretion
著者
Tomoki Hase, Syun Shishido, So Yamamoto, Rei Yamashita, Haruka Nukima, Shu Taira, Tsudoi Toyoda, Keiko Abe, Tsuyoshi Hamaguchi, Kenjiro Ono, Moeko Shinohara, Masahito Yamada, Shoko Kobayashi*
DOI番号
10.1038/s41598-019-45168-1
論文URL
https://www.nature.com/articles/s41598-019-45168-1

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 食の安全研究センター
准教授 小林 彰子(こばやし しょうこ)
Tel:03-5841-5378
E-mail:ashoko<アット>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp <アット>を@に変えてください。
研究室URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/foodfunctional/

用語解説

  • 注1 ポリフェノール
    分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ植物成分の総称。植物や果物に豊富に存在する。光合成によってできる植物の色素、苦味、渋み成分であり、抗酸化活性をはじめとした様々な機能性が報告されている。
  • 注2 モノアミン
    ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなどの神経伝達物質の総称。アミノ基1個が2個の炭素鎖によりベンゼン環につながる構造を有する。
  • 注3 アミロイドβ
    アルツハイマー病患者の脳内に凝集・蓄積するタンパク質で、アルツハイマー病脳でみられる老人斑の主成分である。アミノ酸40~42個からなるペプチドで、凝集することにより強い神経毒性を示す。
  • 注4 αシヌクレイン
    主として神経細胞のシナプス前終末に発現しているタンパク質。パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などの疾患(αシヌクレイン異常症)では、リン酸化したαシヌクレインが凝集・蓄積し不溶性の線維となってレビー小体などを形成する。