日本人集団におけるコーヒーの摂取頻度に関与する遺伝子領域を発見
- 発表者
- 賈 慧娟(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 特任准教授)
野川 駿(株式会社ジーンクエスト)
川舩 かおる(株式会社ジーンクエスト)
八谷 剛史(株式会社ジーンクエスト/株式会社ゲノムアナリティクスジャパン)
高橋 祥子(株式会社ジーンクエスト)
五十嵐 麻希(学術振興会 特別研究員RPD/ 国立成育医療研究センター 分子内分泌研究部 共同研究員)
斉藤 憲司(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 特任研究員 /株式会社ジーンクエスト)
加藤 久典(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化専攻 特任教授) )
発表のポイント
- 日本人を対象にしたゲノムワイド関連解析により、コーヒーの摂取頻度に関与する東アジア人特有の遺伝子座を発見しました。
- 食品因子に関連する遺伝子座はほとんど解明されていません。本研究は、コーヒーの摂取頻度に関連するゲノム領域を同定しました。
- 本成果は、コーヒー摂取による脂質代謝改善作用の解明に寄与することが期待されます。
発表概要
ヒトゲノムに存在する個人差は、食生活にも影響を及ぼすことが明らかになりつつあります。ゲノムとコーヒー摂取量の関連は、欧米人集団では研究されていましたが、日本人集団では欧米人集団と異なる領域で関連がみられる可能性があるため、解明が必要でした。
東京大学大学院農学生命科学研究科の加藤久典特任教授らは、日本初の消費者向け大規模遺伝子解析会社である株式会社ジーンクエストとの共同研究にて、日本人約1万2千人の遺伝子情報を解析した結果、コーヒーの摂取頻度に、これまで欧米人集団で同定されていた7p21領域に加え、東アジア人特有の12q24領域も関与していることを発見しました。
本研究から、日本人集団におけるコーヒー摂取量とゲノムの関連が明らかになりました。本研究成果は、コーヒーによる健康増進作用の機構の解明に寄与することが期待されます。
発表内容
図1 マンハッタンプロットの結果
図2 コーヒーの摂取頻度に関与する遺伝子領域
カフェイン代謝との関連が明らかになっている7q21領域のAHR遺伝子と、東アジア人特有の12q24領域がコーヒーの摂取頻度に関与することが、日本人集団で示された。さらに、12q24領域とコーヒーの摂取頻度の関連は、男性で女性よりも強いことが明らかになった。
ヒトゲノムに存在する個人差は、体質や疾病に関係するだけでなく、食習慣にも影響を及ぼすことが明らかになりつつあります。コーヒーは身近な飲料であり、コーヒーの摂取には脂質代謝改善作用を始めとした様々な健康効果が報告されているため、近年欧米人を対象にコーヒー摂取量と関連するゲノム上の領域が探索されています。しかし、ヒトゲノムの個人差は地域によって分布に大きく差があるため、日本人集団では欧米人集団と異なる領域にもコーヒー摂取量との関連がみられる可能性が示唆されていました。
東京大学大学院農学生命科学研究科の加藤久典特任教授らは、株式会社ジーンクエストとの共同研究にて、日本人約1万2千人のゲノム情報とWebアンケート情報を用いてゲノムワイド関連解析(GWAS、注1)を行い、ヒトゲノム上でコーヒー摂取量に有意に関連のある座位を2か所同定しました。このうち1か所は、ヒト7番染色体上の7p21領域上に存在し、カフェインの代謝やコーヒー摂取量と関連することが明らかになっているAHR遺伝子の上流に位置していました。欧米人を対象とした研究でもAHR遺伝子近傍の座位が同定されており、本研究によりコーヒー摂取量とAHR遺伝子との関係が裏付けられました。一方、欧米人集団では発見されていなかった、ヒト12番染色体の12q24領域上の座位が同定されました。この座位はCUX2遺伝子上に存在していましたが、12q24領域には代謝に関わる遺伝子が集中して存在しており、また連鎖不平衡(注2)が強く見られるため、コーヒー摂取量と直接関係する遺伝子座を特定するにはさらなる研究が必要です。さらに、調整因子を加えた解析では、コーヒーと7q21および12q24領域の関連にはBMIや飲酒、喫煙を介していないことが明らかになりました。また、コーヒー摂取量と関連している座位について詳しく解析すると、どちらの座位にも年齢差は見られませんでしたが、12q24領域上の座位とコーヒー摂取量との関連には男女差があり、女性よりも男性の方が強く相関していました。2つの座位について、BMI、総コレステロール値、中性脂肪値、HbA1c値を比べてみると、コーヒーを多く摂取する傾向にあるグループでBMIと中性脂肪が有意に低いことが分かりました。
本研究成果は、ヒトゲノム上のコーヒー摂取量に関連する領域を同定したことで、コーヒーの持つ健康増進作用の生理学的機構の解明に寄与することが期待されます。また、ヒトゲノムと食品や食習慣の関連については未だ不明な点が多く、特に日本人集団における研究は少ないため、今後他の食品についても研究が必要であると考えられます。
発表雑誌
- 雑誌名
- 「BMC Genetics」
- 論文タイトル
- GWAS of habitual coffee consumption reveals a sex difference in the genetic effect of the 12q24 locus in Japanese populations
- 著者
- Huijuan Jia; Shun Nogawa; Kaoru Kawafune; Tsuyoshi Hachiya; Shoko Takahashi; Maki Igarashi; Kenji Saito; Hisanori Kato*
- DOI番号
- 10.1186/s12863-019-0763-7
- 論文URL
- https://bmcgenet.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12863-019-0763-7
問い合わせ先
応用生命化学専攻(健康栄養機能学社会連携講座)
特任教授 加藤 久典(かとう ひさのり)
e-mail:akatoq<アット>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp <アット>を@に変えてください。
Tel:03-5841-1607
用語解説
- (注1) ゲノムワイド関連解析(GWAS)
ゲノムワイド関連解析(GWAS):ヒトゲノム全体のSNPsの遺伝子型を決定し、SNPsの頻度と病気や量的形質との関連を統計的に調べる方法。 - (注2) 連鎖不平衡
ゲノム上で近傍にある複数の遺伝子座において、特定の配列の組み合わせの頻度が高くなる現象