発表者
雷  志皓 (東京大学農学部獣医学専修 学生)
芳賀  猛 (東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 教授)
尾原 浩子 (日本農業新聞 農政経済部 記者)
関山 大樹 (日本農業新聞 農政経済部 記者)
関口  敏 (宮崎大学農学部獣医学科/宮崎大学産業動物防疫リサーチセンター 准教授)
本部 エミ (宮崎大学 語学教育センター/宮崎大学産業動物防疫リサーチセンター 講師)
藤原 未歩 (宮崎大学農学部獣医学科 学生)
雷  理沙 (東京大学農学部農業資源経済学専修 学生)
徐  行 (東京大学教養学部後期課程総合社会科学分科 学生)
張  璽瑩 (東京大学経済学部経営学科 学生)
佐藤  赳 (東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻 助教)
杉浦 勝明 (東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻 教授)

発表のポイント

  • アフリカ豚熱が中国などアジア諸国で発生し、日本への侵入が危ぶまれる中で、主要な侵入源となる豚肉製品の違法持込についてアンケート調査を実施しました。
  • アンケート調査の結果、訪日中国人の2.8%が豚肉製品を持ち込んでいることがわかりました。
  • 豚肉製品の持込について違法性を認識している人ほど、持ち込みを控える傾向があることも判明し、啓発活動が有効であることが示されました。

発表概要

 アフリカ豚熱が中国などで発生し、日本への侵入が危ぶまれる中、東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻の杉浦勝明教授らは、2019年8~9月、宮崎大学農学部および日本農業新聞と共同で、中国人旅行者248人を対象に豚肉製品の持込の実態を把握するためのアンケート調査を実施しました。その結果、7人(2.8%)の回答者が豚肉製品を持ち込んでいることが判明し、一人当たり250g~2kgを持ち込んでいました。持ち込みは「簡単だ」または「少し簡単だ」と考える人は32人(12.9%)、7人(2.8%)は違法性の認識を持っていませんでした。回帰分析の結果、違法性の認識が高い人ほど持込を困難と考え、持ち込みを控える傾向があることが示されました。空港などでの違法持込豚肉製品の押収例などは報告されているものの、違法輸入の実態を調査した例は少なく、この研究成果は、今後の侵入防止策の検討に有用な情報を提供するものと考えられます。

発表内容

 人や物の国際移動の増大に伴い、動物の感染症のまん延リスクが高まっています。特に、2018年8月に中国にアフリカ豚熱が侵入して以降、中国内で拡大するとともに他のアジア諸国にも広がり、日本への侵入リスクが高まっています。
アフリカ豚熱については、かつて豚肉製品の違法持込により侵入を許した事例が多数あり(スペイン、キューバ、ブラジル、モーリシャス、ジョージアなど)、日本への侵入リスク評価の検討にあたっても、違法輸入の実態を明らかにする必要があるとの背景の下、東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻の杉浦勝明教授らは、2019年8~9月、宮崎大学農学部および日本農業新聞と共同で、中国人旅行者248人を対象に豚肉製品の持込の実態を把握するためのアンケート調査を実施しました。
 アンケート調査では、回答者の属性(年齢、性別、訪日目的、滞在期間、同行者の数)に続いて、豚肉製品の持込の有無、持ち込みの困難性、違法性の認識について質問しました。豚肉製品を持ち込んだと回答した者には、持ち込んだ製品の数、種類、重量および持込の目的(自己消費用、プレゼント用)を訊きました。
 その結果、7人(2.8%)の回答者が豚肉製品を持ち込んでいることが判明し、ハム、ソーセージなど一人当たり250g~2kgを持ち込んでいることがわかりました。このうち、持ち込みは「簡単だ」あるいは「少し簡単だ」と考える人は32人(12.9%)存在し、7人(2.8%)は違法性の認識がありませんでした。
 また、持ち込みに影響を与える要因を特定するために、回答者の属性や違法性の認識などを独立変数として、持込の有無を従属変数としてロジスティック回帰分析を行ったところ、持込が難しいと考える人ほど持込を控え、違法性の認識の高い人ほど、持込を難しいと考えていることが示されました。
 年間訪日中国人旅行者数(約600万人、2018年)と、このアンケート調査の結果から、毎年約17万人の中国人旅行者が肉製品を持ち込んでいる可能性があることがわかりました。これは、空港の検疫探知犬/または税関職員による尋問によって摘発された豚肉製品の違法持込数の3.8倍です。日本政府は罰則強化などの対応をとっていますが、さらに旅行者に対する違法性の認識を高めるための啓発活動を強化するとともに、日本の養豚農家は侵入防止のためのバイオセキュリティを維持・強化する必要性が再確認されました。

発表雑誌

雑誌名
Preventive Veterinary Medicine
論文タイトル
A questionnaire survey of the illegal importation of pork products by air travelers into Japan from China and exploration of causal factors
著者
Zhihao Lei, Takeshi Haga, Hiroko Obara, Hiroki Sekiyama, Satoshi Sekiguchi, Amy Hombu, Miho Fujihara, Lisha Lei, Shin Hsu, Xiying Zhang, Iori Ishitsuka,Yamato Atagi, Takeshi Sato, Katsuaki Sugiura*(*責任著者)
DOI番号
doi.org/10.1016/j.prevetmed.2020.104947
論文URL
https://doi.org/10.1016/j.prevetmed.2020.104947

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻 国際動物資源科学研究室
教授 杉浦 勝明(すぎうら かつあき)
Tel:03-5841-5383
E-mail:aksugiur<アット>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp <アット>を@に変えてください。