発表者
近澤未歩(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 特任助教;当時)
吉武 淳(名古屋大学未来社会創造機構 特任助教)
林 世映(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 大学院生)
岩田汐里(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 大学院生;当時)
根岸瑠美(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 技術職員)
柴田貴広(名古屋大学大学院生命農学研究科 応用生命科学専攻 准教授)
内田浩二(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授、AMED-CREST研究者 兼任)

発表のポイント

  • タンパク質の翻訳後修飾の一種であるリジンN-ピロール化を引き起こす内因性分子としてグリコールアルデヒドを同定した。
  • これまでに生体内においてピロール化タンパク質が存在することは確認されていたものの、どのような経路で生成するのかは明らかでなかったが、今回初めてその生成機構を明らかにした。
  • ピロール化タンパク質の蓄積は、高脂血症患者や自己免疫疾患モデル動物などでも確認されていることから、疾患との因果関係が推測される。

発表概要

 タンパク質のリジンN-ピロール化は、発表者らのグループにより発見された新しいタンパク質翻訳後修飾反応である。タンパク質はピロール化により核酸染色試薬や抗DNA抗体などにより認識されるという非常にユニークな構造特性を獲得する。これまでにタンパク質ピロール化が生体内でも生じること、ピロール化タンパク質が血清中のアポリポタンパク質Eと相互作用することなどを報告してきた。しかし、ピロール化に関わる内因性因子は不明であった。
 本研究では、酸化脂肪酸とタンパク質の反応によりピロール構造が生成することに着目し、リジンピロール化に関わる分子の探索を行った。脂質や糖質に関連した様々な代謝産物について検討した結果、グリコールアルデヒドをピロール化因子として同定した。今回の結果は、ピロール化が細胞内でも起きうることを示しており、食と健康などの生活習慣との関わりに興味がもたれる。

発表内容


図1. グリコールアルデヒドによるタンパク質リジンのピロール化(左)と核酸染色試薬による染色(右)

 これまでに発表者らは、抗DNA抗体や核酸染色試薬と反応性を示すなど、タンパク質に対してDNA様構造特性を付与する修飾反応として、“リジンN-ピロール化”を見出し、その相互作用分子の解明などを行ってきた。本研究では、ピロール化因子の同定とピロール化機構の確立を主な目的とした。様々な代謝産物のスクリーニングにより、ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸などの多価不飽和脂肪酸の酸化生成物の関与が示唆されたことから、酸化脂肪酸中に含まれるピロール化因子の解析を行なった結果、グリコールアルデヒドをピロール化因子として同定することに成功した(図1)。グリコールアルデヒドによるピロール化機構に関しても検討を行い、グリコールアルデヒドの自動酸化により生成されるグリオキサールの関与を明らかにし、グリコールアルデヒドとグリオキサールそれぞれ1分子ずつがリジンのアミノ基と脱水縮合し、ピロール環が形成されるメカニズムを提案した。
 グリコールアルデヒドはタンパク質との反応性が高く、様々な修飾構造を生成することが報告されているが、アミノ基との反応によるピロール構造の生成は本研究で初めて明らかになった。また、グリコールアルデヒドは脂質からだけでなく、糖質やアスコルビン酸の酸化からも生成されることから、細胞内外においてタンパク質ピロール化が普遍的に起きうることが予想される。一方、これまでの検討において、ピロール化タンパク質が血清因子であるアポリポタンパク質Eと相互作用することを明らかにしていたが、グリコールアルデヒド修飾タンパク質も同様にアポリポタンパク質Eと結合することを確認した。また、グリコールアルデヒドにより生成される修飾構造の中でも、ピロール構造は免疫原性が高いことから、生体内においても様々な機能性を発揮することが予想された。高脂血症モデルマウスにおいて、血中のピロール化タンパク質量の増加やピロールリジンに対する抗体の増加などが明らかになっていることからも、ピロールリジン生成と高脂血症には何らかの関連性があることが示唆される。
 グリコールアルデヒドは、解糖系の代謝産物でもあるほか、宇宙空間での存在も報告されるなど、生命起源との関連性が示唆される有機化合物でもある。ピロール化を介したタンパク質のDNA様構造特性の獲得という現象と何らかの関わりがあるのかどうか、今後の研究の進展が期待される。

発表雑誌

雑誌名
:The Journal of Biological Chemistry
論文タイトル
:Glycolaldehyde is an endogenous source of lysine N-pyrrolation
著者
:Miho Chikazawa, Jun Yoshitake, Sei-Young Lim, Shiori Iwata, Lumi Negishi, Takahiro Shibata, Koji Uchida
DOI番号
:10.1074/jbc.RA120.013179
論文URL
:https://www.jbc.org/content/295/22/7697.full.pdf

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 食糧化学研究室
教授 内田 浩二(うちだ こうじ)
Tel:03-5841-5127
Faxl:03-5841-8026
E-mail:a-uchida<アット>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。
研究室URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/foodchem/index.html