発表者
江草智弘(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 特任研究員)
熊谷朝臣(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 教授)
白石則彦(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 教授)

発表のポイント

  • 森林の炭素貯留量と炭素吸収速度を正確に知ることは、地球温暖化の抑制にも関係して、森林生産計画の策定に重大な意味を持ちます。
  • 近年整備が進んできた日本全国に渡る15000点に近い毎木調査(注1)点の結果を、これまで日本の森林蓄積量を評価してきた収穫表(注2)による結果と比較しました。
  • 新しく算出された森林炭素蓄積量・炭素吸収速度は、炭素換算で30.16憶トン・4850万トン毎年となり、これまで発表され正しいと信じられていた値の、それぞれ1.72倍・2.44倍となりました。これら新しい値は、我が国のこれからの森林管理政策に多大の影響を及ぼすでしょう。

発表概要

 森林の炭素貯留量と炭素吸収速度を正確に知ることは、二酸化炭素放出削減策と地球温暖化の抑制シナリオの策定にとって重大な意味を持ちます。森林炭素貯留の最も正確な推定法は、毎木調査の結果を基本とする方法であると言えます。全国森林資源調査(NFI)は、日本全国の森林における樹木の幹の体積(材積)を提供してくれるもので、毎木調査の結果から直接見積もりのもの(m–NFI)と、過去に行われた毎木調査によって作られた収穫表により推定されたもの(p–NFI)があります。
 本研究では、日本全国の総森林材積を見積もるために、国も地方の森林行政機関も、多くの学術研究においても、p–NFIが使われ続けられ、その結果、これまでの値(p–NFI)は実際の値(m–NFI)に対して、森林炭素蓄積量については58~64%、炭素吸収速度に至っては41~48%に過ぎないという強烈な過小評価が生じていたことが分かりました。この理由として、まず、p–NFIでは実際の森林面積の10%が考慮され損なったこと、そして、p–NFIで使われた収穫表は1970年頃に作られたものであり時代遅れとなってしまったことが考えられます。
 森林炭素蓄積量の正確な見積もりのためには、p–NFIで使われる収穫表を最新のものに作り替えるか、これからもm–NFIを継続的に行うかすべきです。実際、我が国の森林の炭素吸収速度は驚異的なほど高いので、将来は、他の二酸化炭素排出削減策との兼ね合いと損益効果を見極めた上での適切な森林管理計画の策定が求められます。

発表内容


図1 森林炭素蓄積量(炭素換算)は、m–NFIで30.16憶トンと推定され、これまでの推定値(p–NFI)の17.5憶トンの1.72倍となりました。

図2 年あたりの森林炭素吸収速度(炭素換算)は、m–NFIで4850万トンと推定され、これまでの推定値(p–NFI)の1990万トンの2.44倍となりました。

 森林は、大量の大気中二酸化炭素を、光合成を通じて吸収し、木質バイオマスという形で長期間貯蔵し続けます。近年、森林の二酸化炭素吸収能力は、地球規模で大気中二酸化炭素濃度に大きな影響を及ぼし、その結果、地球温暖化の抑制に関して重大な役割を演じることが示されました。京都議定書からマラケシュ合意に至る取り決めで、適切な森林管理に基づく森林の二酸化炭素吸収量は、国ごとに定められた二酸化炭素排出削減目標に組み込むことができると決められています。地球規模、また、国レベルでも、森林の炭素貯留量と炭素吸収速度を正確に知ることは、二酸化炭素放出削減策と地球温暖化の抑制シナリオの策定にとって重大な意味を持ちます。

 毎木調査の結果を基本として作られる森林簿(注3)の利用は、森林炭素貯留量の最も正確な推定法であると言えます。全国森林資源調査(NFI)は、日本全国の森林における樹木の幹の体積(材積)を提供してくれる森林簿で、次のように2種類のNFIがあります。一つは、過去のある時点で行われた毎木調査結果に基づき作られた収穫表を用いて、その時々の森林の状況を予測した森林簿(p–NFI)です。もう一つは、その時々の毎木調査の結果から直接作られた森林簿(m–NFI)です。
 1970年代以前では、毎回のp–NFIで毎木調査が行われて収穫表が作られていましたが、それ以降では現在に至るまで1970年代に作られた収穫表が使い続けられています。一方、m–NFIは 1961、1966年に日本全国10000点の調査地で行われた後、1999年に調査方法が改訂されるまで長きに渡り行われてきませんでした。しかし、満を持して行われたこの1999~2003年(調査期間は5年)のm–NFIは十分な信頼性を持っていませんでした。そして、続く2009~2013年のm–NFIは、計画調査地は14838点に昇り、調査者は技術トレーニングを受け、専門家が調査結果の正確さをチェックすることで、史上最も信頼性の高いNFIとなることができました。
 強調すべきは、我が国の森林行政機関も研究者でさえも、日本の総森林材積の見積もり、ひいては、総炭素貯留量を見積もるためにp–NFIを使い続けており、その結果、明らかな間違い・過小評価を犯している可能性があるということです。このp–NFIによる見積もりが我が国の公式の真正な森林総炭素貯留量であると喧伝されていることは、二酸化炭素放出削減策と地球温暖化の抑制シナリオの策定に関わる政策決定者を間違った方向に導くという意味で大問題です。そこで、本研究の目標は、2009~2013年のm–NFIを用いて日本の真正の総森林炭素貯留量を算出することです。そして、その過程において、p–NFIの何が間違いの原因になったのかを探ることで、これからのNFIのあり方について提言を行います。

 1961、1966年のm–NFIによる総炭素貯留量は、約8.5憶トン(以下、全て炭素換算)でした。1956、1975年のp–NFIによる値が、それぞれ約8憶トン、約9憶トンであることと、この時のp–NFIは直近の毎木調査の結果を使っているためm–NFIと違いがないと考えられることから、以上の値は全て正しく森林炭素貯留量の時間推移を追えていると判断できます。
 2012年のp–NFIによる総炭素蓄積量は17.5憶トンと見積もられていますが、2011年(2009~2013年の中央)のm–NFIは、26.96~30.16憶トン(値の幅は、幹のみの材積から葉や根を含む樹木個体全体のバイオマスに拡大する手法の違いに起因)となり、真値(m–NFI)はp–NFIの最大1.72倍となりました。
 1956~1975年のp–NFIとm–NFIの総炭素貯留量推定値の確からしさから、1966年のm–NFIによる値8.34憶トンを信頼して、1966~2012年のp–NFIによる森林炭素吸収速度と1966~2011年のm–NFIによるものを算出、比較してみました。結果は、p–NFI、m–NFIによる推定で、それぞれ、1990万トン毎年と4140~4850万トン毎年となり、真値(m–NFI)はp–NFIの最大2.44倍、少なく見積もった場合でも2倍を超えるという驚くべき事態となりました。

 p–NFIの問題点は、大きく分ければ2つあります。一つは、直接現場に赴き森林地を確定するm–NFIでの日本全体の森林面積2590万ヘクタールという見積もりに対し、p–NFIによる推測は、2370万ヘクタールと10%近い低い値になってしまっていることです。もう一つは、p–NFIによる見積もりの趨勢を決めるともいえる収穫表が1970年代に作られたものであり、我が国の森林の現状を推定するには時代遅れとなっていることです。この収穫表の問題の原因を考えてみると、以下のようなことが考えられます。
(1)収穫表を作った1970年代に残っていた老齢木は、成長の良いものは第二次世界大戦前に大部分が伐採され、成長の悪いものばかりが残っていたと考えられます。また、近年の研究成果により、成長がほとんど止まると、これまで考えられていた老齢木の成長速度は、意外と大きいということが判明しています。つまり、1970年代に作られた収穫表では、老齢木・巨木の成長速度が正しく反映されていないと考えられます。
(2)近年進む地球温暖化は、特に日本のような温帯の森林の成長速度を高めます。また、近年進む大気中二酸化炭素濃度の高まりは、大陸からの窒素降下物がある日本では、直接の施肥効果が働くと考えられます。このように近年高められた成長速度を、1970年代に作られた収穫表では表現できません。
(3)適切な森林管理、特に適切な間伐が行われているという前提で収穫表は作られています。近年問題となっている間伐遅れの条件下では、収穫表は正しく森林材積を推定できません。また、間伐不足は森林内の比較的小さい木の本数とバイオマスを増やし、結果として、森林全体のバイオマスを増やすことが知られています。間伐遅れの条件下で収穫表を使い、大きい木(材を得るために必要な木)から小さい木(材を得るには不十分な木)までの森林総材積を推定すれば、それは過小評価につながることになります。

 我が国の森林行政機関、すなわち、林野庁は今でも、我が国の総森林材積から森林炭素蓄積量の値まで、p–NFIによる推定値を公式の真正値としています。しかし、これは明らかに過小評価で、真値の58~64%に過ぎないという大きな間違いを犯しています。実際、我が国の森林の炭素吸収速度は驚異的なほど高いので、森林生産管理や二酸化炭素排出削減策に関する適切な政策決定のためにも、この間違いは速やかに是正されなければなりません。
 今、まさに2014~2018年のm–NFIが完了し、現在、その結果の解析が進んでいます。この最新のm–NFIでは、より精度・確度の高い森林情報が得られると期待されています。より良いNFIのためには、これからもm–NFIを継続的に行うか、経費的に困難ならば、最新のm–NFIを利用して収穫表を更新すべきです。そのような最新の収穫表を用いたp–NFIならば信頼性の高い森林炭素蓄積量が得られるでしょう。

発表雑誌

雑誌名
:「Scientific Reports」(2020年5月出版)
論文タイトル
:Carbon stock in Japanese forests has been greatly underestimated
著者
:Tomohiro Egusa*, Tomo’omi Kumagai, and Norihiko Shiraishi *Corresponding author
DOI番号
:10.1038/s41598-020-64851-2
論文URL
:https://www.nature.com/articles/s41598-020-64851-2

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 森林科学専攻 森林理水及び砂防工学研究室
教授 熊谷 朝臣(くまがい ともおみ)
Tel:03-5841-8226
E-mail:tomoomikumagai<アット>gmail.com  <アット>を@に変えてください。

用語解説

  • 注1 毎木調査
     森林の中に調査区画を設けて、その中の木を全て、または、何本か抜き出し、1本毎に高さ(樹高)や胸の高さの直径(胸高直径)などを測ること。
  • 注2 収穫表
     ある森林の区画において、樹種・土地の良し悪し(地位)から、木の本数、樹高、胸高直径、幹の体積(材積)等が森林の年齢(林齢)に対してどのように推移していくかを示した表。
  • 注3 森林簿
     森林の位置、樹種、林齢、材積、成長量、保安林等制度の有無、森林評価等の情報が記載された台帳。