発表者
作道 章一(岡山理科大学獣医学部 准教授)
播谷  亮(東京大学農学生命科学研究科農学国際専攻持続可能な自然再生科学寄付講座 特任教授)
古崎 孝一(一般財団法人ミネラル活性化研究所 代表理事)
太西るみ子(株式会社サンタミネラル 代表取締役)
小野寺 節(東京大学農学生命科学研究科持続可能な自然再生科学寄付講座・食の安全研究センター 特任教授)

発表のポイント

  • 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子(注1)が植物病原体を不活化することを明らかにしました。
  • 代表的な植物病原体であるキャベツ黒腐菌(Xanthomonas campestris pv. campestris)対しては、消毒液25℃、30分浸漬すると、0.36+0.23 log10CFU/mlに生菌量が低下しました。これに対し同条件の蒸留水に浸漬すると、3.52+0.12 log10 CFU/mlのままでした。
  • 菌感染により種子は蒸留水浸漬では56.67+8.82%が発病しましたが、消毒液浸漬では26.67+3.33%と半減しました。この消毒薬は、植物種子に対し防菌防黴効果が有り、食の安全、食糧自給率向上に大いに貢献すると思われます。

発表概要

Xanthomonas campestris pv. campestris (Xcc)は、グラム陰性菌で、種子を通じて感染します。この菌によりキャベツおよび葉物野菜に対し黒腐病が発生します。この病気は世界の葉物野菜に最も一般的に見られる病気で、その被害は世界で総額数千億円に達します。種および土壌の汚染がその感染経路です。
 一方、現在ポジティブリストにより登録されている農薬は、すべて厳しい安全評価試験に合格しており、正しい使用法が守られている限り安全である事はもちろんです。しかしながら、かっての農薬の様に防御効果を第一とし、対照とする病害虫や雑草への適用範囲が広い農薬をハード農薬とすれば、速分解性で環境汚染がなく、選択制の高い農薬をソフト農薬と考えることが可能す。今回我々は野菜の黒腐病に対し、新たなソフト農薬を開発しました。

発表内容

図1 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子(CAC-717)のXcc菌に対する消毒効果
8.22 log10 CFU/ml 量のXcc菌を等量の炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子濁液と混合しました。a) 25℃にて混合0.5分後より有意に菌数が減少し、5分後にはほぼ消失しました。b)25℃にて炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子剤懸濁液の代わりに等量蒸留水を混合しましたが、菌数の減少は見られませんでした。c)50℃にて炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子懸濁液の代わりに等量蒸留水を混合しましたが、5分後に僅かに優位差のある菌数の減少が見られました。*はp<0.05の有意差を示します。**はp<0.01の有意差を示します。NSはコントロール(0)分との有意差なしを示します。


図2 Xcc菌汚染種子に対する炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子の消毒効果
汚染種子に炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子で25℃、30分で処理したのちに、培地で3日間培養して菌の回収を行いました。*はp<0.05の有意差を示します。炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子処理の種子から回収した菌数は減少しました。


図3 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子処理による汚染種子における発病率の低下
汚染種子に炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子で25℃、30分で処理したのちに、培地で5日間培養して発病状態(出芽苞の小型化、子葉の黄色化)を観察しました。*はp<0.05の有意差を示します。



図4 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子処理後の未汚染キャベツ種子の発芽率(a)と茎の長さ(b)に変化はありませんでした。
炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子を未汚染種子に25℃、30分処理し発芽率、茎の長さについて蒸留水処理群との差の有無を検討しました。Water: 蒸留水。NS: コントロール(Water)との有意差は有りませんでした。

【研究内容】
 はじめに、Xcc菌に対する製剤の効果を観察しました(図1)。8.22+0.08 log10CFU/mlを常温において0.5、1、2、5分間処理したところ、90%の菌が5分以内に消失しました。製剤のpHは12.3を示しましたが、人体に触れると速やかにpH 7.0に低下しました。対照として、25℃、50℃の蒸留水でしたところ、25℃では菌の減少は観察されませんでした。これに対し50℃では5分後に僅かながら、統計学的に優位な菌の減少が観察されました。
 次に、Xcc菌に汚染したキャベツ種子を25℃30分製剤あるいは蒸留水で処理し、Xcc菌の回収量を比較しました(図2、3)。3.52+0.12 log10 CFU/mlの菌が5日後に蒸留水処理汚染種子より回収されましたが、製剤処理汚染種子からは0.36+0.23 log10CFU/mlの菌のみが汚染種子より回収されました。5日後の種子の黒腐病は蒸留水処理では56.67+8.82%でしたが、製剤処理では26.67+3.33%と半減しました。
 さらに非感染種子の出芽率と茎の伸長度を比較しました(図4)。25℃30分製剤処理と蒸留水処理の条件で比較しました。発芽率はそれぞれ90.00+5.77%、 90.00+5.77で統計的な優位差は見られませんでした。5日後の茎の伸長も28.27+1.27㎜と25.52+1.49㎜で統計的な優位差は見られませんでした。したがって、この製剤は植物種子に対しても毒性の無いことが明らかにされました。

【社会的意義・今後の予定】
 我々は、この炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子(1,120ppm)を含む懸濁液が動物病原体(インフルエンザウイルス、ノロウイルス、プリオン等)に殺菌作用を有する事を種子殺菌に利用しました。今回は植物病原体に対してもその効果を検証しました。
その結果、キャベツ等に感染する黒腐病菌(Xcc)に対して殺菌効果のあることを明らかにしました。従来の重曹、重カリの結果からして様々な植物病原体に対して炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子は効力を有すると考えられます。また、詳細については研究段階ですが、お茶において30%程度の増収が鹿児島県知覧茶で得られています。さらに酪農学園大学の桐澤力雄教授は15種類の家畜病原ウイルスや新型コロナウイルスに対し炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子が殺菌効果を有すると報告しています。従って、その投与方法、持続性が検証されれば将来の植物保健薬として十分に有効と考えられます。
 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子が分解してできる消石灰は、土壌改良剤として働き、環境毒性を起こす心配はありません。したがって将来代表的なソフト農薬となり得ます。

発表雑誌

雑誌名
Microorganisms, 8, 1606, 2020, 10月19日印刷
論文タイトル
Elecrically charged disinfectant containing calcium hydrogen carbonate mesoscopic crystals as a potential measures to comtrol Xanthomonas campestris
著者
Akikazu Sakudo, Makoto Haritani, Koichi Frusaki, Rumiko Onishi, Takashi Onodera
DOI番号
10.3390/microorganisms8101606
論文URL
https://www.mdpi.com/2076-2607/8/10/1606

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科持続可能な自然再生科学寄付講座
特任教授 小野寺 節(おのでら たかし)
Tel:03-5841-8182
E-mail:atonode<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。

用語解説

  • 注1 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子
    本研究で使用した炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子は、直径50~100nmの結晶で、蓄電と放電、水素イオンの吸蔵および中赤外線放射等の物性を有します。