紅茶の消費量に関連する遺伝子領域を日本人集団において発見
- 発表者
- 古川 恭平(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 特別研究員)
五十嵐 麻希(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 特任研究員/
国立成育医療研究センター 分子内分泌研究部 共同研究員)
賈 慧娟(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 特任准教授)
野川 駿(株式会社ジーンクエスト)
川舩 かおる(株式会社ジーンクエスト)
八谷 剛史(株式会社ジーンクエスト/株式会社ゲノムアナリティクスジャパン)
高橋 祥子(株式会社ジーンクエスト)
斉藤 憲司(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 特任研究員/株式会社ジーンクエスト)
加藤 久典(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 特任教授)
発表のポイント
- 日本人を対象にしたゲノムワイド関連解析により、紅茶消費量に関連するゲノム領域を初めて発見しました。
- 発見したゲノム領域は、東アジア人集団に特有の領域でした。
- 本研究成果は、個々の遺伝的体質に応じた栄養アドバイスである「パーソナルゲノム栄養」への応用が期待されます。
発表概要
紅茶は、世界で最も消費される飲料の一つです。紅茶には、健康効果が報告されている有益な化合物が多く含まれています。近年の疫学研究では、一日3杯の紅茶を飲むことで虚血性脳卒中の発病が抑制されることが報告されています。
東京大学大学院農学生命科学研究科の加藤久典特任教授らは、日本初の消費者向け大規模遺伝子解析会社である株式会社ジーンクエストとの共同研究にて、日本人約1万2千人の遺伝子情報を解析した結果、紅茶の消費量に関連するゲノム領域を発見しました。さらに、そのゲノム領域は東アジア人集団に特有の領域でした。最も強い関連が確認されたSNP(rs2074356)に着目すると、1アレルあたり年間約15杯の紅茶消費量が増加していました。
本研究成果は個々の遺伝的体質に応じた栄養アドバイスである「パーソナルゲノム栄養」への応用が期待されます。
発表内容
紅茶は、世界で最も消費される飲料の一つです。紅茶には、糖尿病に効果があるカフェインや老化、酸化ストレス、高血圧に効果のあるテアフラビンなど、我々の健康に有益な化合物が多数含まれています。また、近年の疫学研究では、一日3杯の紅茶を飲むことで虚血性脳卒中の発病が抑制されることが報告されています。
一塩基多型(SNP、注1)は、遺伝的な体質に影響することが知られています。近年の研究により、食習慣の個人差にもSNPが影響していることが明らかになっています。実際に我々の過去の研究においても、コーヒー消費量、魚の消費量および甘味嗜好性に関わるゲノム領域を報告しております。また、これまでのゲノムワイド関連解析(GWAS、注2)では、カフェイン含有飲料として、主にコーヒーについて研究されてきましたが、紅茶の消費量に関連するゲノム領域を調べた研究はありませんでした。
東京大学大学院農学生命科学研究科の加藤久典特任教授らは、株式会社ジーンクエストとの共同研究にて、日本人約1万2千人のゲノム情報とWebアンケート情報を用いてGWASを行いました。まず、沖縄を除く本州の日本人集団においてGWAS解析を行った結果、ヒト12番染色体上の12q24領域に存在する11のSNPsと12q15領域に存在する1つのSNPが紅茶の消費量に関連する候補SNPsとして抽出されました。この中で、12q24領域上の3つのSNPs(rs2074356、rs144504271、rs12231737)は沖縄地方の集団においても、本州集団と沖縄集団を合わせたメタ解析においても紅茶の消費量に関連していました。最も強い関連が確認されたSNP(rs2074356)に着目すると、1アレルあたり年間約15杯の紅茶消費量が増加していました。
12q24領域のSNPsは日本を含む東アジア人に特有のものであり、また、様々な食習慣と関わることが知られています。そこで、12q24領域と紅茶消費量の関連性を同領域との関連が既に知られている飲酒量、飲酒頻度、コーヒー消費量もしくは甘味嗜好性で追加調整しました。その結果、12q24領域と紅茶消費量の関連性は飲酒量、コーヒー消費量および甘味嗜好性による追加調整では変化しませんでしたが、飲酒頻度により追加調整すると、その関連性はわずかに減弱化したものの、その変化は比較的小さいものでした。さらに、12q24領域と紅茶消費量の関連を男性と女性、および年齢の高い群と低い群に分けてそれぞれ解析した結果、その関連は性別や年齢の影響を受けていないことが分かりました。
本研究は、日本人集団において12q24領域の遺伝子多型が紅茶消費量に関連するということを示し、さらにその関連に飲酒頻度が一部介在する可能性が示唆されました。本研究は、紅茶消費量に関連するゲノム領域を発見した初めての研究です。本研究成果は、個々の遺伝的体質に応じた栄養アドバイスである「パーソナルゲノム栄養」への応用が期待されます。
発表雑誌
- 雑誌名
- Nutrients
- 論文タイトル
- A Genome-Wide Association Study Identifies the Association between the 12q24 Locus and Black Tea Consumption in Japanese Populations
- 著者
- Kyohei Furukawa, Maki Igarashi, Huijuan Jia, Shun Nogawa, Kaoru Kawafune, Tsuyoshi Hachiya, Shoko Takahashi, Kenji Saito, and Hisanori Kato*
- DOI番号
- 10.3390/nu12103182
- 論文URL
- https://www.mdpi.com/2072-6643/12/10/3182
問い合わせ先
東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻健康栄養機能学
特任教授 加藤 久典(かとう ひさのり)
Tel:03-5841-1607
E-mail:akatoq<アット>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp <アット>を@に変えてください。
用語解説
- 注1 一塩基多型(SNP)
集団の中で1%以上の頻度で特定の塩基配列が異なる場所のこと - 注2 ゲノムワイド関連解析(GWAS)
ヒトゲノム全体のSNPsの遺伝子型を決定し、SNPsの頻度と病気や量的形質との関連を統計的に調べる方法