発表者

高野 智弘(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 博士後期課程 研究当時)
上滝 隆太郎(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 博士後期課程 研究当時)
朴 知賢(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 博士後期課程 研究当時)
好田 正(東京農工大学農学研究院 応用生命化学部門 教授)
若月 芳雄(京都大学医学研究科 加齢医学 講師)
田之倉 優(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 特任教授)
宮川 拓也(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 特任准教授)
高橋 恭子(日本大学生物資源科学部 応用生物科学科 教授)
足立(中嶋) はるよ(東京大学大学院農学生命科学研究科 食の安全研究センター 特任助教)
八村 敏志(東京大学大学院農学生命科学研究科 食の安全研究センター 准教授)

発表のポイント

  • 制御T細胞(regulatory T cells; Treg)は過剰な免疫反応を抑えるはたらきがあり、炎症の抑制に重要となります。
  • 腸管において樹状細胞(dendritic cell; DC)(注1)はレチナール脱水素酵素2 (retinal dehydrogenase 2; RALDH2)(注2)の作用によりビタミンA代謝産物であるレチノイン酸を産生し、これを介してTreg誘導の促進に寄与します。
  • 本研究で加齢マウスにおいて、RALDH2遺伝子のエピジェネティックな発現抑制を一因として、腸管DCのRALDH2発現・活性が減少し、経口投与抗原に対するTregの誘導が低下することが示唆されました。
  • 本研究で得られた知見は、腸管免疫応答の加齢による機能低下が、加齢による炎症促進に関与する可能性を示しています。

発表概要



 加齢により、炎症反応が亢進することが明らかになっており、高齢者における炎症性疾患発症の要因となっている可能性が考えられます。制御性T細胞(regulatory T cells; Treg)は過剰な免疫反応の抑制にはたらく細胞として重要ですが、加齢に伴い新たな抗原に対して誘導されるTregの分化は減少することが示唆されており、炎症を促進する一因となる可能性が考えられます。一方、腸管において樹状細胞 (dendritic cell; DC)はレチナール脱水素酵素(retinaldehyde dehydrogenase 2; RALDH2)の作用によりビタミンA代謝産物であるレチノイン酸を産生し、Treg誘導に寄与します(図1)。
 今回の研究で我々の研究グループは、加齢マウスにおいて、腸間膜リンパ節DCのレチナール脱水素酵素(retinaldehyde dehydrogenase 2; RALDH2)の発現、酵素活性が低下し、DCのTreg誘導能が低下することを明らかにしました。また、このRALDH2の発現低下が、加齢に伴うエピジェネティックな遺伝子発現制御によるものであることが示唆されました。さらに、食物抗原に対するTregを誘導できる実験系を使用して加齢に伴うTreg誘導能が低下することを示し、レチノイン酸の投与により、Treg誘導能が改善されました。以上、加齢マウスにおいて腸管DCのRALDH2遺伝子発現のエピジェネティックな発現抑制を一因としてレチノイン酸産生能が減少し、Tregの誘導が低下することが示唆されました(図2)。
 本研究で得られた知見は、腸管免疫応答の加齢による機能低下が、加齢による炎症促進に関与する可能性を示しています。

発表雑誌

雑誌名
Frontiers in Immunology
論文タイトル
Age-Dependent Decrease in the Induction of Regulatory T Cells Is Associated With Decreased Expression of RALDH2 in Mesenteric Lymph Node Dendritic Cells
(加齢による制御性T細胞誘導能の低下は、腸間膜リンパ節樹状細胞におけるRALDH2発現の低下に関係している)
著者
Tomohiro Takano, Ryutaro Kotaki, Jihyun Park, Tadashi Yoshida, Yoshio Wakatsuki, Masaru Tanokura, Takuya Miyakawa, Kyoko Takahashi, Haruyo Nakajima-Adachi and Satoshi Hachimura
DOI番号
10.3389/fimmu.2020.01555
論文URL
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2020.01555/full

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の安全研究センター 免疫制御研究室
准教授 八村 敏志(はちむら さとし)
Tel:03-5841-5230
Fax:03-5841-5230
E-mail:ahachi<アット>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。

用語解説

  • 注1 樹状細胞
     樹状の突起を持つことから樹状細胞とよばれています。微生物等の環境の刺激を検知し、T細胞やB細胞の応答を制御することがしられ、腸管においては制御性T細胞誘導やIgA抗体産生の誘導に重要な役割を果たします。
  • 注2 RALDH2
     ビタミンAは、レチナールを経て、レチノイン酸へ変換されます。レチナールからレチノイン酸への生成過程は、レチナール脱水素酵素(retinal dehydrogenase ; RALDH)が触媒します。このRALDHは一部の細胞にしか発現しておらず、腸管においては、腸管上皮細胞(RALDH1)および樹状細胞(RALDH2)が発現していることが知られています。レチノイン酸は、免疫抑制機能を有する制御性T細胞の誘導、腸管指向性のホーミングレセプターの発現誘導等、腸管免疫系において重要な役割を担います。