発表者
Chunpeng Yang (University of Maryland, USA)
Qisheng Wu (Brown University, USA)
Weiqi Xie (University of Maryland, USA)
Xin Zhang (University of Maryland, USA)
Alexandra Brozena (University of Maryland, USA)
Jin Zheng (Florida State University, USA)
Mounesha N. Garaga (City University of New York, USA)
Byung Hee Ko (University of Delaware, USA)
Yimin Mao (University of Maryland, USA)
Shuaiming He (University of Maryland, USA)
Yue Gao (University of Maryland, USA)
Pengbo Wang (Florida State University, USA)
Madhusudan Tyagi (University of Maryland, USA)
Feng Jiao (University of Maryland, USA)
Robert Briber (University of Maryland, USA)
Paul Albertus (University of Maryland, USA)
Chunsheng Wang (University of Maryland, USA)
Steven Greenbaum (City University of New York, USA)
Yan-Yan Hu (Florida State University, USA)
磯貝 明(東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 特別教授)
Martin Winter (University of Münster, Germany)
Kang Xu (Army Research Laboratory, USA)
Yue Qi (Brown University, USA)
Liangbing Hu (University of Maryland, USA)

発表概要

 TEMPO酸化セルロースナノファイバーの特異なナノ構造を利用することで、分子チャネル構造を有する新しい全固体リチウム電池を開発した。高い伝導率を維持しながら高い輸率を有し、安定性のある安全な新しい全固体電池製造とその基本コンセプトの構築に成功し、そのメカニズムを解明した。

発表内容

図1 Li–Cu–CNF固体イオン伝導体の構造とイオン輸送性能
a)セルロースナノファイバー(CNF)の階層構造。Cu2+イオンと、CNF内のセルロース分子の水酸基との配位により、CNF中のセルロース分子鎖間隔が広がり、CNFにセルロース分子チャネル構造が生成し、Li–Cu–CNFイオン伝導体のLi+伝導経路として機能。b)輸率をイオン伝導度に対してプロット。Li–Cu–CNFは、他の材料と比べて極めて高電導度、高輸率を発現。c)Li–Cu–CNF膜の長さ1mのロール。


図2 Li–Cu–CNFを電解質および固体LiFePO4バッテリー用のイオン伝導性バインダーとして使用した例。a)スラリーキャスティング法により、カソード材料としてLi–Cu–CNFイオン伝導性バインダーを組み込む。Cu–CNF懸濁液を、水溶液中でカソード材料、CNT添加剤、アルギン酸ナトリウムバインダーと混合してカソードスラリーを調製。次に、スラリーをアルミホイルにキャストし、35℃で真空乾燥。カソード電極をLi+電解質に浸して、Li+をCu–CNFに挿入し、真空乾燥して、Li–Cu–CNFバインダーを含む固体電極を得る。b,c)厚いLiFePO4カソード(約120 µm厚)を使用した全固体電池の電気化学インピーダンス分光法で分析した結果。b)Li–Cu–CNF。c)Li–CNF。d)Liアノード、Li–Cu–CNF固体高分子電解質、およびLi–Cu–CNFイオン伝導性バインダーを含むLiFePO4カソードで作製された全固体電池。LEDライトに電力を供給。

 固体リチウムイオン電池は、高いエネルギー密度と安全性の点で期待されているが、既存の固体イオン伝導体は、実用化に対して厳しい電池条件を満たすことが困難であった。無機のイオン伝導体は高速イオン輸送を可能にするが、その剛性と脆性により、電極との良好な界面接触が妨げられてしまう。また、Li金属イオンに安定な高分子イオン伝導体は、優れた界面適合性と機械的強度を有するが、イオン伝導性が低下してしまうという課題があった。本論文では、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)の特異的なナノ構造を活かして、独自の分子チャネル構造を形成するによって高性能固体高分子イオン伝導体の調製に成功した。TEMPO酸化CNF内のセルロース水酸基に銅イオン(Cu2+)を配位させることで、セルロース分子間を微小であるが適正な間隔に広げることにより、通常はイオン絶縁性のCNF内に分子チャネル構造を形成することで、セルロース分子鎖に沿ったLi+イオンの高速輸送を可能にした。その結果、室温で1.5×10-3ジーメンス/センチメートル(従来の高分子材料の10~1000倍)という高いLi+伝導率に加え、Cu2+配位セルロースイオン伝導体により、0.78という高い輸率(従来の高分子では0.2~0.5)を達成した。また、Li-金属アノードと高電圧カソードの両方に対応できる4.5ボルトまでの電気化学的安定性を示した。したがって、薄い固体電解質として利用可能であるとともに、低イオン伝導性が課題であった厚い固体電極にも適用可能な高イオン伝導性バインダーとして利用できる。これらの結果から、安全で高性能な全固体電池の基本設計コンセプトを提案でき、同時にその機能発現機構を解明した。

発表雑誌

雑誌名
Nature
論文タイトル
Copper-coordinated cellulose ion conductors for solid-state batteries
著者
Chunpeng Yang, Qisheng Wu, Weiqi Xie, Xin Zhang, Alexandra Brozena, Jin Zheng, Mounesha N. Garaga, Byung Hee Ko, Yimin Mao, Shuaiming He, Yue Gao, Pengbo Wang, Madhusudan Tyagi, Feng Jiao, Robert Briber, Paul Albertus, Chunsheng Wang, Steven Greenbaum, Yan-Yan Hu, Akira Isogai, Martin Winter, Kang Xu, Yue Qi, Liangbing Hu*
DOI番号
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03885-6
論文URL
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03885-6

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻
特別教授 磯貝 明(いそがい あきら)
Tel:03-5841-8243
Fax:03-5841-8244
E-mail:akira-isogai<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。

用語解説

  • 注1 TEMPO酸化セルロースナノファイバー
     植物セルロースのTEMPO触媒酸化反応により、植物が生合成する約3 nmの超極細均一幅の結晶性セルロースミクロフィブリル単位にまで完全にナノ分散化された新規バイオ系ナノ素材。著者らが見出し、既に国内で2社、海外でも数社、公的研究所が本格生産あるいはパイロット生産している。再生産可能な木質バイオマスを原料とし、CO2の固定化物である新素材としての多面的な基礎研究が進められているとともに、様々な機能材料としての実用化に向けた研究開発が世界レベルで検討されている。
  • 注2 全固体リチウム電池
     従来の電解液を含む電池とは異なり、電解液がなく、固体電解質を用いることでもリチウムイオンの移動を可能にする構造を有する電池。固体高分子電解質としてポリエチレンオキシド等が提案されてきた。しかし、高イオン電導度と高輸率の両立が困難であった。電解液電池と比較すると、液漏れがないので安全性が高く、劣化しにくい。急速充電が可能で高エネルギー密度が達成できる等の優位性があり、世界レベルでの研究開発が進められている。