発表者
板倉 正典(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 助教)
山口 公輔(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 大学院生)
北澤 麗磨(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 大学院生、当時)
林  世映(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 大学院生、当時)
阿南 優佑(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 大学院生)
吉武  淳(名古屋大学大学院生命農学研究科 応用生命科学専攻 技術員)
柴田 貴広(名古屋大学大学院生命農学研究科 応用生命科学専攻 教授)
根岸 瑠美(東京大学定量生命科学研究所 中央実験室 技術職員)
須川 日加里(東海大学農学部 食生命科学科 博士研究員)
永井 竜児(東海大学農学部 食生命科学科 教授)
内田 浩二(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授、AEMD-CREST研究者 兼任)

発表のポイント

  • 最終糖化産物(AGEs)が単球・マクロファージの細胞膜上ヒストンと結合することで炎症性細胞浸潤を抑制し、抗炎症作用を示すことを明らかにした。
  • 新規のAGEs受容体としてヒストンを同定した。またプラスミノーゲン受容体として機能する細胞膜上ヒストンに結合することで、AGEsが細胞動態を制御することを見出した。
  • これまで一般的に炎症性分子と考えられてきたAGEsが、ヒストンへの結合を介して抗炎症作用を示すといった二面性を持つことが明らかとなり、生体恒常性維持や炎症性疾患予防におけるAGEsの新たな役割が注目される。

発表概要

 糖や酸化型ビタミンCによって糖化修飾を受けたタンパク質は、最終糖化産物(AGEs)を形成する。AGEsは糖尿病や粥状硬化症などの発症に関わる炎症性分子としての作用が知られているが、その生理的機能については不明な点が多く残されている。
 本研究では、酸化型ビタミンC由来AGEsの細胞膜上受容体としてヒストンを同定し、その結合様式の詳細を明らかにした。また、細胞膜上ヒストンのプラスミノーゲン受容体としての作用を阻害することで、AGEsが炎症性細胞浸潤を抑制し、抗炎症性に働くことを明らかにした。これらの結果から、一般的に炎症性の悪玉分子として考えられてきたAGEsが、ヒストンとの結合を介し抗炎症性の善玉分子としても機能することが明らかとなり、生体恒常性維持や疾病予防におけるAGEsの新たな役割が示唆された。

発表内容

図1 細胞膜上H2Bへの結合を介したAGEsによる炎症抑制作用 (拡大画像↗)

 生体内や調理時において、糖や酸化型ビタミンC、それらの代謝物は非酵素的にタンパク質を化学修飾(糖化)し、AGEsと総称される不均一なタンパク質修飾体を形成する。AGEsはRAGEなどのAGEs受容体との結合を介し、糖尿病や粥状硬化症などの発症に関わる炎症性分子として働くことが知られている。一方で、発表者らのグループはこれまでに、酸化型ビタミンC由来AGEsが自然免疫を活性化する可能性を示してきたが、その分子メカニズムの詳細は明らかではなかった。
 本研究では、まず始めにAGEsの新規受容体の同定を試みた。酸化型ビタミンC由来AGEsの結合分子を解析したところ、細胞膜(特に脂質ラフト)画分に含まれるヒストンが同定された。ヒストンは転写制御に関わる核内タンパク質として有名であるが、近年、細胞膜上や細胞外においても機能する多機能タンパク質であることが報告されている。リコンビナントヒストンを用いた検討の結果、AGEsがヒストンと直接結合する(特にヒストンH2Bとの親和性が高い)こと、結合にはヒストンN末端テール領域とAGEsの静電相互作用が重要であることが明らかとなった。
 続いて、AGEs-ヒストン結合による生理応答について検討を行った。ヒストンH2Bは単球・マクロファージなどの細胞膜上に発現し、プラスミノーゲン受容体として働くことが知られており、プラスミノーゲンの活性化を促進することで炎症性細胞浸潤を促進することが知られている。そこでプラスミノーゲン活性化と細胞浸潤におけるAGEsの影響について検討を行った結果、AGEsがプラスミノーゲンのヒストンH2Bへの結合を阻害し、活性化を阻害することが明らかとなった。さらに、AGEsによって単球・マクロファージの炎症部位への浸潤が抑制されることをin vitroin vivoの実験において明らかにした(図1)。
 本研究では、AGEsが細胞膜上ヒストンへ結合することで炎症性細胞浸潤を抑制し、炎症応答に対し抑制的に働くことを明らかにした。これらの結果より、一般的に「炎症を引き起こし、疾病発症の原因である」と考えられてきたAGEsが、「ヒストンとの結合を介し抗炎症性に働くことで生体恒常性維持に寄与する」という二面性を持つことが明らかとなった。

 この研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(S)、学術研究助成基金助成金 若手研究、AMED革新的先端研究開発支援事業 AMED-CREST、AMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業BINDSの支援を受けて行われました。

 

発表雑誌

雑誌名
Nature Communications
論文タイトル
Histone functions as a cell-surface receptor for AGEs
著者
Masanori Itakura, Kosuke Yamaguchi, Roma Kitazawa, Sei-Young Lim, Yusuke Anan, Jun Yoshitake, Takahiro Shibata, Lumi Negishi, Hikari Sugawa, Ryoji Nagai, and Koji Uchida
DOI番号
10.1038/s41467-022-30626-8
論文URL
https://www.nature.com/articles/s41467-022-30626-8

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 食糧化学研究室
教授 内田 浩二(うちだ こうじ)
Tel:03-5841-5127
Fax:03-5841-8026
E-mail:a-uchida<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。
研究室URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/foodchem/index.html