発表者
蔵治光一郎(東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林企画部 教授)
齋藤 暖生(東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林富士癒しの森研究所 講師)

発表のポイント

  • 山中湖の増水をもたらす大雨を対象とし、降水量と湖水位上昇量の関係が時代とともに変化したことを解明し、降水量から湖水位上昇量を予測する式を提案した。
  • 過去93年間の山中湖の湖水位・放流量データをすべて収集し解析した研究は過去に例がない。降水量と湖水位上昇の関係が時代とともに変化したことを初めて明らかにし、湖水位上昇量を予測する式を初めて提案した。
  • 本研究で提案した湖水位上昇量を推定する式を、アメダスの観測値から湖水位上昇量を予測する式として用いることで、行政が観光客や住民等に注意喚起するなどの用途で社会に貢献できる。

発表概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林の蔵治教授と齋藤講師は、山中湖における過去93年間の湖水位、放流量および降水量データを収集し、大雨時の湖水位上昇量と降水量の関係の長期変化を解析し、集水域の植生が草地から森林に変化したにもかかわらず、同じ降水量の雨に対して湖水位が増水しやすくなったことを明らかにしました。過去93年間の山中湖の湖水位・放流量データをすべて収集して解析した研究は過去に例がなく、降水量と湖水位上昇の関係が時代とともに変化したことを初めて明らかにしました。本研究で提案した湖水位上昇量を推定する式は、リアルタイムで公表されているアメダスの観測値から湖水位上昇量を予測できる式として用いることが可能です。本研究成果は、2022年7月15日にオープンアクセスジャーナル「Water」に掲載されました。

発表内容

図1:本研究で解析対象とした93年間の湖水位と放流量の時系列データ (拡大画像↗)


図2:6日間の湖水位上昇量と6日間降水量との関係。青:1928~1968年、赤:1972~2020年(拡大画像↗)

図3:山中湖周辺の植生の長期変化。上:1900年ごろ、下:2000年ごろ。黄色:草地、緑:広葉樹林、濃い緑:針葉樹林。(拡大画像↗)

 湖水位の極端な変動は、洪水、水不足、湖の水質の変化を通じて、湖の生態系、漁業、観光に影響を及ぼす可能性があります。将来の気候変動による湖水位変動を予測するためには、自然の影響と人為的な影響を別々に評価する必要があり、そのためには過去の長期にわたる湖水位の変動を調べ、その原因を明らかにすることが有効です。本研究では富士五湖の1つ山中湖を対象として、山梨県および東京電力が観測してきた過去93年間の湖水位・放流量データ(図1)、山中湖畔に位置する東京大学演習林富士癒しの森研究所、気象庁、山梨県庁が観測してきた降水量データを収集・整理し、大雨時の湖水位の上昇に注目して過去から現在にわたる長期変化を調べました。湖水位上昇量と降水量の関係を探索したところ、大雨に伴う湖水位上昇量と降水量の相関が最も高くなる集計日数は6日でした。1972~2020年では、アメダスの山中観測点の6日間降水量が100ミリメートル増えるごとに湖水位が18.6センチメートル上昇する関係にあることがわかりました。この関係を過去と現在で比較したところ、同じ6日間降水量に対する湖水位上昇量は、1928~1968年に比べて1972~2020年には約1.7倍に増加していました(図2)。120年前の集水域は草原が多くを占めていましたが、現在は森林が多くを占めています(図3)。この間、集水域の保水力は徐々に増加したと推測されるにもかかわらず、同じ雨に対して増水しやすくなった原因として、大雨時のみ水が流れる谷に河川工事・砂防工事を行ったことや、駐車場を整備するために湖岸を埋め立てたことの影響が考えられました。また93年間で特に湖水位が高かった5回の大雨を抽出したところ、最大湖水位との相関が最も高い降水量は、最大湖水位を記録した日に至るまでの71日間の累積降水量であることがわかりました。そのうち最も湖水位が高かったのは1938年9月6日の5.02メートルで、この日に至るまでの71日間の累積降水量は3053.4ミリメートルでした。

発表雑誌

雑誌名
「Water」(オンライン版:7月15日公開)
論文タイトル
Long-Term Changes in Relationship between Water Level and Precipitation in Lake Yamanaka
著者
Koichiro Kuraji,* Haruo Saito
DOI番号
10.3390/w14142232
論文URL
https://www.mdpi.com/2073-4441/14/14/2232

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
教授 蔵治 光一郎(くらじ こういちろう)
E-mail:kuraji_koichiro<アット>uf.a.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。