発表者
Oriana M. Vanderfleet (University of Hamilton, Canada)
Francesco D’Acierno (University of British Columbia, Canada)
磯貝 明(東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 特別教授)
Mark J. MacLachlan (University of British Columbia, Canada)
Carl A. Michal (University of British Columbia, Canada)
Emily D. Cranston (University of British Columbia, Canada)

発表概要

 TEMPO酸化セルロースナノクリスタル(TEMPO-CNC)の熱安定性・熱分解挙動および機構について、その特異なナノ形状と表面構造、対イオンの観点から検討し、加熱混練プロセスによる高分子基材との複合化におけるCNCの表面構造制御、熱安定性向上などについての基礎的知見を得ることができた。

発表内容

図:ナトリウム型およびプロトン型の表面構造の異なるカルボキシル化セルロースナノクリスタルの加熱による化学構造変化を固体23Na-NMR分析により解明 (拡大画像↗)

 アスペクト(長さ/幅)比の大きなセルロースナノファイバーに対し、アスペクト比の小さいセルロースナノクリスタル(CNC)は、分散液の高固形分化、乾燥粉末化による保存性、運搬性、高分子との複合化プロセスの簡便性等に優れたナノサイズ幅のバイオ系新素材であり、その基礎および応用研究が進められています。特に高分子との複合化過程による軽量高強度材料の開発では加熱混錬プロセスを経ることが多いため、熱安定性の理解、熱分解機構の解明および熱安定性の向上が求められています。本研究では、異なるイオン基、対イオンを表面に高密度で有する10種類のCNCについて、熱安定性と熱分解挙動・機構について検討しました。カルボキシ基を高密度に有するTEMPO酸化-CNC、エステル化CNCは、ナトリウム型よりも酸型の方が、熱安定性が高いのに対し、硫酸エステル化CNCは逆の熱安定性挙動を示しました。熱重量変化および固体NMR分析の結果、カルボキシ基を有するCNCの場合には、そのカルボキシ基量が熱安定性に与える影響は少なく、一方、硫酸エステル化CNCの場合にはその影響が大きいことが判明しました。したがって、TEMPO酸化CNCのようなカルボキシ基を有するCNCの方がイオン基量の精密制御の必要性がありません。また、比表面積が大きいTEMPO酸化CNCは熱分解開始温度が低く、1段階の熱分解反応ですが、硫酸エステル基を有するCNCおよびカルボキシ基をエステル基として有するCNCでは、熱分解過程で副生する炭酸ナトリウムも、CNCの熱分解反応に関与しており、二段階以上の熱分解反応を有していました。得られた結果から、高分子基材との混錬などの高温複合化過程でのCNC選択や表面構造の最適化について重要な知見が得られ、バイオナノ系素材としてのCNCを含有する汎用および高機能高分子複合材料の開発が可能になります。

発表雑誌

雑誌名
Chemistry of Materials(2022年9月14日電子版掲載)
論文タイトル
Effects of surface chemistry and counterion selection on the thermal behavior of carboxylated cellulose nanocrystals
著者
Oriana M. Vanderfleet, Francesco D’Acierno, Akira Isogai, Mark J. MacLachlan, Carl A. Michal, Emily D. Cranston*
DOI番号
10.1021/acs.chemmater.2c01665
論文URL
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.2c01665?ref

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻
特別教授 磯貝 明(いそがい あきら)
Tel:03-5841-8243
Fax:03-5841-8244
E-mail:akira-isogai<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。

用語解説

  • 注1 TEMPO
     2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカルの略で、水可溶性、Ames試験陰性の安定ニトロキシルラジカル。水を媒体とし、触媒量のTEMPO酸化反応により、多糖類の1級水酸基が位置選択的に高効率・高収率で酸化でき、カルボキシ基のナトリウム塩ユニットからなるポリウロン酸類に変換できることが、1995年に見いだされた。
  • 注2 TEMPO酸化セルロースナノクリスタル(TEMPO-CNC)
     植物セルロースのTEMPO触媒酸化反応と、酸化物の水中での解繊処理により得られる約3 nmの超極細均一幅で、平均長さが200 nm以下の結晶性ナノセルロース。著者らが2018年に見出し、新たなCNCとして国際共同研究を進めてきた。TEMPO-CNCは新規バイオ系ナノ素材として、実用化に向けた様々な研究開発が世界レベルで進められている。