発表者
三宅 良尚(東京大学大学院 農学生命科学研究科 森林科学専攻 森林風致計画学研究室 特任研究員)
香坂  玲(東京大学大学院 農学生命科学研究科 森林科学専攻 森林風致計画学研究室 教授)

発表のポイント

  • 大分県の国東半島宇佐地域世界農業遺産認定地域(GIAHS)の原木しいたけ生産を対象に低温性品種、中温性品種の選択から気候変動適応策の実施について分析しました。
  • 本研究では低温性品種の生産割合の大小について、居住集落の斜度、年間売上、低温性品種を対象としたブランドの活用との関係性に着目しました。その結果、斜度、年間売上については有意に低く(斜面が急だと低温品種の割合が少ない、年間売上が低いほうが低温品種の割合が高い)、低温性品種を対象にしたブランドの活用では有意に高く(ブランドの活用が行われていると低温品種の割合が大きい)なりました。
  • これらの分析結果から国東半島宇佐地域では、ブランドを活用した販路が確保されている状況で、小規模生産者が生産を継続することで低温性品種の生産が下支えされていることが明らかになりました。
  • 原木しいたけなどの高品質産品と伝統的な生産環境の気候変動適応は振興策も含めて、今後も調査・研究が必要と言えます。

発表概要

国東半島宇佐地域世界農業遺産認定地域にて循環的に生産、活用されるクヌギ林(拡大画像↗)

山の斜面にて種コマの菌をホダ木に活着させる伏せ込みの様子(拡大画像↗)

しいたけ菌が活着したホダ木の置き場(ホダ場)での聞取り調査(拡大画像↗)

2020年10月に原木しいたけ生産者などのステークホルダーに出席頂いたワークショップ(拡大画像↗)

桐箱に梱包された国東半島産の干しいたけ。桐箱のひもや、緩衝材に地理的表示登録産品(GI)の七島藺が使用されている(撮影:徳丸寿文)(拡大画像↗)

 本研究では、地域レベルにおける気候変動への適応策としての特用林産物の品種選択、森林管理について、大分県国東半島宇佐地域世界農業遺産認定地域(GIAHS)を対象に調査を実施しました。国東半島宇佐地域のGIAHSは、カスケードにつながる干ばつ対策のため池と水源涵養機能を果たすクヌギ林の農林水産循環が特徴的で、クヌギ林の原木を活用した干しいたけ生産が不安定な稲作からの収入を補う副収入減として重要な役割を果たして来ました。畳表の原料であり地理的表示保護制度(GI)産品に指定されているくにさき七島藺も地域の代表的な産品として知られています。
 大分県国東市の原木しいたけ生産者、大分県椎茸農業協同組合、大分県庁、国東市役所、専門商社などへの聞取りを基に質問票を作成し、国東市、豊後高田市、杵築市、そして、宇佐市の72軒の原木しいたけ生産者に対して質問票調査を実施しました。調査結果は、原木しいたけ生産者の低温性品種、中高温性品種の選択を中心に分析しました。。さらに、超学際的実践として、熟議型のワークショップを開催し、調査内容についての確認も行いました(ワークショップの内容は下のYouTubeリンクより閲覧可能)
 分析結果から、生産者ごとの低温性品種の生産割合の平均は39.4%で、平均で生産者を分けた場合、低温性品種のブランドの活用で有意に高く(ブランド活用が行われていると低温性品種の割合が高い)、集落の傾斜が有意に低い(集落の傾斜が急だと低温性品種の割合が低い)ことが明らかになりました。さらに生産割合50%で生産者を分けた場合、平均年間売上が有意に低くなりました(売上が小規模な生産者のほうが低温性品種の割合が高い)。このことから、国東半島宇佐地域では、ブランドを活用した販路が確保されている状況で、小規模生産者が生産を継続することで低温性品種の生産が下支えされていることが明らかになりました。急傾斜の地域では適応策の実施で生産の手間がさらに増すことから品種の転換が進んでいると考えられます。一方で、大規模生産者は生産の不安定化により、収入が大きく変動するリスクから品種の転換が進んでいると推察されます。また、地球温暖化が深刻化し、低温性品種の生産が困難になるに従って、知識の伝達の経路について家族以外からの経路が増加するなどの傾向も確認されました。

本研究は、国東半島宇佐地域世界農業遺産調査研究事業、JSPS科学研究費補助金 基盤B「気候変動・縮小期における観光と保全の両立:境界オブジェクトとしての土地利用マップ」(22H03852) 及び JST・RISTEX 「農林業生産と環境保全を両立する政策の推進に向けた合意形成手法の開発と実践」(JPMJRX20B3)の助成を中心として実施されました。JSPS 科学研究費補助金 (16KK0053、17K02105、21K18456)及びJST 共創の場形成支援プログラム(JPMJPF2110)の成果も一部活用しています。

2022 年11月17 日( 木 )17:00からの森林科学セミナーIIにおいて、国東半島宇佐地域世界農業遺産認定地域についての講演、発表を行います。

https://forms.gle/zgkddS9XyjSTxSgd6 (15日申込締切)

関連リンク先

発表雑誌

雑誌名
Journal of Sustainable Forestry
論文タイトル
Climate Change Adaptation in Non-Timber Forest Products: How Resilient are Small Shiitake Producers?
著者
Yoshitaka Miyake1, Ryo Kohsaka1,* *Corresponding author
三宅良尚1、香坂玲1 所属1. 東京大学大学院農学生命科学研究科
DOI番号
10.1080/10549811.2022.2123822

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 森林科学専攻 森林風致計画学研究室
Tel:03-5841-5218
E-mail:kohsaka.lab<アット>gmail.com  <アット>を@に変えてください。
   kohsaka<アット>hotmail.com  <アット>を@に変えてください。