発表者
山口公輔 (東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 大学院生)
板倉正典 (東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 助教)
塚本萌南 (東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 大学院生)
林 世映 (東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 大学院生、当時)
内田浩二 (東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授、AMED-CREST研究者 兼任)

発表のポイント

  • ポリフェノールによって化学修飾を受けたタンパク質がヒストンとの結合能を獲得することを明らかにしました。
  • ポリフェノール修飾タンパク質上に生成したポリフェノール集合体がヒストンテールとの相互作用に関わることを明らかにしました。
  • ポリフェノール修飾タンパク質がヒストン誘発性の細胞傷害を緩和することを明らかにしました。

発表概要

 ポリフェノールは様々な疾患のリスク低減に寄与することから広く注目を集める機能性分子ですが、その作用メカニズムの多くは未だ解明されていません。今回、発表者らは、ポリフェノールがタンパク質と反応して生じる「ポリフェノール修飾タンパク質」に着目し、その機能性解明を試みました。その結果、ポリフェノール修飾タンパク質がヒストンと結合すること、またポリフェノール修飾タンパク質がヒストン誘発性の細胞傷害を緩和することを明らかにしました。これらの結果から、ポリフェノールによる健康増進メカニズムの一端にタンパク質の修飾ならびに修飾タンパク質とヒストンとの結合が関与している可能性が示唆されました。

発表内容

図1:ポリフェノール修飾タンパク質とヒストンとの結合 (拡大画像↗)

 ポリフェノールは果物や野菜に豊富に含まれ、様々な疾病への予防効果が期待される機能性食品成分です。その作用機序として抗酸化活性が広く知られますが、抗酸化能を発揮したポリフェノールは酸化されキノン構造をとることも明らかとなっています。このキノン構造は親電子性が非常に高く、タンパク質上のリジンやシステインと反応し酸化型リジンやアダクト構造といったユニークな修飾構造を形成することが分かってきました。一方で、こうした修飾構造を含むタンパク質、いわばポリフェノール修飾タンパク質が生体内で担う機能性については明らかになっていませんでした。そこで本研究では、ポリフェノール修飾タンパク質の機能性解明を目的として実験を進めました。 ポリフェノール修飾タンパク質の構造的特徴は、糖化修飾タンパク質にも共通する特徴です。また当研究室における先行研究から、糖化修飾タンパク質は塩基性タンパク質であるヒストンと相互作用することが明らかになっています。これらの知見から、糖化修飾タンパク質と構造的特徴を同じくするポリフェノール修飾タンパク質もまた、ヒストンと相互作用するものと予想しました。固相結合試験の結果、カテキンの1種であるエピガロカテキンガレート(EGCG)やピセアタンノールなどのポリフェノールによって修飾されたタンパク質はたしかにヒストンと相互作用することが示されました。ヒストンは構造的にコアドメイン・テールドメインの2つに分けられますが、ポリフェノール修飾タンパク質はヒストンのテール領域に結合すること、また両者の結合にはヒストンテール領域中に豊富に含まれるリジン残基が重要であることを明らかにしました。さらに、タンパク質分子上に生成したポリフェノール集合体がヒストンとの結合に寄与することが明らかになり、さらにその相互作用様式としてカチオン-π相互作用の関与が示唆されました(図1)。
 このようにポリフェノール修飾タンパク質との相互作用が明らかとなったヒストンですが、一般的には細胞核内にて遺伝子の発現調節に関わることが知られます。一方で、細胞死や細菌感染などの要因によって細胞外に放出されたヒストンは細胞傷害性を示し、動脈硬化症をはじめとする様々な疾患の進展に寄与することが報告されています。そこで本研究にてヒストンとの結合が見出されたポリフェノール修飾タンパク質のヒストン誘発性細胞傷害への影響を検討しました。その結果、血管内皮細胞に対するヒストン誘発性細胞傷害をポリフェノール修飾タンパク質が緩和し、細胞保護作用を示すことが明らかになりました。
  本研究では、ポリフェノール修飾タンパク質との相互作用分子としてヒストンを同定しました。また、ポリフェノール修飾タンパク質がヒストン誘発性の細胞傷害を緩和し細胞保護作用を発揮することを明らかにしました。これらの発見は、ポリフェノールによる健康増進作用の全容解明につながることが期待されます。また、カテキン類はお茶に豊富に含まれる生理活性物質として知られるほか、ピセアタンノールは赤ワインに含まれるレスベラトロールの代謝産物として知られます。従って、お茶や赤ワインといった食品の機能性の一端はこれらに含まれるポリフェノールのタンパク質修飾活性及び修飾タンパク質のヒストン結合活性で説明できる可能性が示唆されます。以上の知見は、食を通じた健康改善を目指す健康医学の科学的基盤となることが期待されます。

 この研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(S)、 学術研究助成基金助成金 若手研究、AMED革新的先端研究開発支援事業 AMED-CRESTの支援を受けて行われました。

発表雑誌

雑誌名
Journal of Biological Chemistry
論文タイトル
Natural polyphenols convert proteins into histone-binding ligands
著者
Kosuke Yamaguchi, Masanori Itakura, Mona Tsukamoto, Sei-Young Lim, and Koji Uchida
DOI番号
10.1016/j.jbc.2022.102529
論文URL
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(22)00972-3/pdf

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 食糧化学研究室
教授 内田 浩二(うちだ こうじ)
Tel:03-5841-5127
Fax:03-5841-8026
E-mail:a-uchida<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。
研究室URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/foodchem/index.html