発表者
香坂  玲(東京大学 大学院農学生命科学研究科 森林科学専攻 教授)
内山 愉太(神戸大学 大学院人間発達環境学研究科 助教)

発表のポイント

  • 森林情報整備の予算額については、私有林人工林面積の割合とも相関があり、私有林人工林の量的な特徴に加えて、割合と関係性があることが把握されました。
  • 私有林人工林の面積割合が大きいことが、私有林人工林の各都道府県における「存在感」と関係し、割合が大きいと政策課題としての存在感が大きい可能性があると推察されます。
  • 必ずしも私有林人工林の面積が大きくない都道府県でも、その割合が高ければ情報整備に予算を振り分ける傾向を特定しました。
  • *森林環境譲与税は、気候変動の緩和と適応のための森林管理を促進するため、また、手入れ不足の人工林の管理を進めるために、2019年より導入されています。

発表概要

図1 都道府県が管理している情報(2021年3月)(拡大画像↗)


表1 林地台帳の記載事項と元となる情報及び情報管理整備主体(林野庁(2020)を基に作成)(拡大画像↗)


図2 森林情報の所在(2021年3月)(拡大画像↗)

 気候変動の緩和と適応、災害防止等を図るための森林整備を促進するために、とりわけ、手入れ不足の人工林の管理を進めることを意図し、森林環境譲与税は、2019年に導入されています。本稿では、都道府県による森林環境譲与税を活用した森林情報整備に関連する実施状況、計画、制度への調査を実施することで、森林環境譲与税の利用状況を明らかにしました。現状都道府県は多様な森林情報を管理しています(図1)。森林簿など、都道府県で管理されている情報の一部は林地台帳に含まれる情報として活用されていますが(表1)、林地台帳に限らず、森林情報の整備管理には都道府県のみならず市区町村や国の機関等の多様な主体が関わり、統合的な整備が課題となっています。
 既存研究では、 (1) 税の導入と利用状況、(2) 税の効果、(3) 納税者の意識の3つの課題領域が示されている中で、本研究では47都道府県の分析に基づき、(1)の研究テーマに焦点を当てました。結果、森林整備の総予算と森林環境譲与税の予算に占める森林情報整備の比率は比較的大きいこと、同時にいくつかの都道府県では、トップダウンではなく市町村からの情報提供を受けて双方向的な情報整備を行っていることが特定されました。また、森林情報は、基本的に庁内のPCにおいて管理されつつ、部分的にクラウドにおいて管理されている状況が把握されました(図2)。情報の種類によって所在が大きく異なる傾向は見られませんでした。
 更に森林情報整備の予算規模と都道府県の特徴の相関分析では、私有林人工林の面積の割合が重要であることを把握しました。私有林人工林の面積割合が大きいことが、私有林人工林の各都道府県における「存在感」と関係し、割合が大きいと政策課題としての存在感が大きい可能性が考えられ、必ずしも私有林人工林の面積が大きくない都道府県でも、その割合が高ければ情報整備に予算を振り分ける傾向を特定しました。

*自治体関係者、研究者等には和文で図表を提供することも可能です。適宜、窓口までご照会ください。

本研究は、科研費(22H03852, 21K18456. 20K12398, 17K02105)、 JST RISTEX( JPMJRX20B3)、JST (JPMJPF2110)及び公益財団法人クリタ水・環境科学振興財団(20C002)の支援を受けて実施した。

発表雑誌

雑誌名
Forest Science and Technology
論文タイトル
Use of the Forest Environment Transfer Tax for forest data development and exchange: evidence from all 47 prefectures in Japan
著者
Ryo Kohsaka*, Yuta Uchiyama (*責任著者)
DOI番号
10.1080/21580103.2022.2133017
論文URL
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/21580103.2022.2133017

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 森林風致計画学研究室
教授 香坂 玲(こうさか りょう)
Tel:03-5841-5218
E-mail:kohsaka.lab<アット>gmail.com  <アット>を@に変えてください。
    kohsaka<アット>hotmail.com <アット>を@に変えてください。
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