かずさDNA研究所、タキイ種苗株式会社、東京大学、国立遺伝学研究所、長野県野菜花き試験場は共同で、トルコギキョウ(ユーストマ)のゲノムを解読しました。

写真:トルコギキョウ(ユーストマ)品種名:雪てまり タキイ種苗提供 (拡大画像↗)

トルコギキョウ(Eustoma grandiflorum:ユーストマ)はリンドウ目リンドウ科ユーストマ属に属する植物で、切り花として人気が高く、日本でも多く生産されています。近年は品種改良によって白やピンク、黄や赤の花弁で、八重咲きや花弁にフリンジがあるものなど、様々な色や形態の花をもつ品種が作り出されています。そこで、より多様なニーズに対応した品種開発を進めるための足掛かりとして、トルコギキョウの全ゲノム解読を行いました。

約13億塩基対からなるゲノム塩基配列が明らかになり、36,619の遺伝子を見出すことができました。また、遺伝子を比較することで、リンドウ属とユーストマ属は約4100万年前に分岐していることが明らかになりました。ゲノム情報が明らかになったことで、今までにない特徴を持つトルコギキョウの品種開発が世界中で進むことが期待されます。 研究成果は英文科学雑誌G3において、12月19日(月)にオンラインで公開されました。

発表雑誌

雑誌名
G3
論文タイトル
Chromosome-scale genome assembly of Eustoma grandiflorum, the first complete genome sequence in genus Eustoma
著者
Kenta Shirasawa, Ryohei Arimoto, Hideki Hirakawa, Motoyuki Ishimori, Andrea Ghelfi, Masami Miyasaka, Makoto Endo, Saneyuki Kawabata, Sachiko N Isobe
DOI番号
10.1093/g3journal/jkac329

背景

図1:トルコギキョウの系統関係。リンドウ目のうち、トルコギキョウが属するリンドウ科とコーヒーが属するアカネ科は進化上、約7500万年前に、リンドウ科の中ではリンドウ属とユーストマ属は4100万年前に分岐している。
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図2:国内主要9品種の系統関係。花の色形を品種名の後ろに示す。すべて八重咲き。254,205個の塩基配列の変異を用いた系統解析により、ボレロホワイトは他の8品種と系統的に離れていることがわかった。
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トルコギキョウ(Eustoma grandiflorum)はリンドウ目リンドウ科ユーストマ属に属する植物(図1参照)で、日本でも切り花として人気が高く、多品種が生産されています。原産地は北アメリカ中南部で、キキョウ(キク目)の仲間でもないことから、属名でユーストマと呼ばれることもあります。原生種やそこから派生した品種は紫色で一重のろうと状の花が主でしたが、近年は品種改良によって白やピンク、黄や赤で八重咲きやフリンジ状の花弁のものなど、様々な色や形態の花をもつ品種が作り出されています。そこで、今後のより多様なニーズに対応した品種開発を進めるために、ゲノム*1解析の専門機関であるかずさDNA研究所、多くのユーストマ品種を開発しているタキイ種苗株式会社、ならびに、長年トルコギキョウの花の八重咲き性や立体形態の研究を行ってきた東京大学大学院農学生命科学研究科ほかが連携して、トルコギキョウの全ゲノム解読を行いました。

研究成果の概要

  • 13億2482万塩基対からなるトルコギキョウの全ゲノム塩基配列を明らかにしました。このうち、99%の配列をトルコギキョウの36本の染色体*2上に整列させることができました。得られた塩基配列情報は、データベースPlant Gardenで公開されています。(データベースURL: https://plantgarden.jp/en/list/t52518)
  • 全ゲノム塩基配列上に36,619個の遺伝子を見出すことができました。同じリンドウ目に属するリンドウやコーヒーなど複数の植物種と比較したところ、このうち9,340遺伝子はトルコギキョウのみがもつものであることがわかりました。
  • 遺伝子の塩基配列の比較により、リンドウ目のうち、トルコギキョウが属するリンドウ科とコーヒーが属するアカネ科は進化上約7500万年前に、リンドウ科の中ではリンドウ属とユーストマ属は4100万年前に分岐していることがわかりました(図1)。
  • 日本で栽培されているトルコギキョウの主要9品種のゲノム配列を比較した結果、254,205個の塩基配列の変異を見出しました(雪てまり、ボレロホワイト、パレオピンク、エグゼラベンダー、ラ・フォリア、海ほのか、ロベラクリアピンク、コレゾライトピンク、セレブピンクの9品種)。系統解析により、ボレロホワイトは他の8品種と系統的に離れていることがわかりました(図2)。

将来の波及効果

  • トルコギキョウのゲノム情報が整備されたことにより、トルコギキョウの品種開発を体系的に進めることができるようになります。
  • トルコギキョウは日本では人気が高い切り花ですが、海外ではマイナーな花種のため、研究開発が他の植物種よりも遅れていました。今後、トルコギキョウの研究が加速し、様々な特徴をもつ品種が作出できるようになれば、世界的に需要が拡大すると期待されます。

用語解説

  • [1] ゲノム
     生物をその生物たらしめるのに必須な最小限の染色体のひとまとまり、またはDNA全体のこと。
  • [2] 染色体
     細く長い DNA を保護し、細胞増殖時には効率良く複製と分配を行うための構造体のこと。ヒトでは、染色体は1つの細胞に23対46本ある。トルコギキョウは36対72本。

発表者・問い合わせ先

<報道に関すること>
かずさDNA研究所 広報・研究推進グループ
TEL:0438-52-3930
E-mail: kdri-kouhou [at]kazusa.or.jp
タキイ種苗株式会社 広報出版部 竹田健二
TEL:075-365-0123
E-mail: press [at]takii.co.jp
東京大学農学部・農学生命科学研究科事務部 総務課広報情報担当
TEL:03-5841-8179
E-mail: koho.a [at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp

<研究に関すること>
かずさDNA研究所 植物ゲノム・遺伝学研究室
室長 磯部 祥子(いそべ さちこ)
TEL:0438-52-3935
E-mail: sisobe [at]kazusa.or.jp
タキイ種苗株式会社
有本 龍平(ありもと りょうへい)
TEL:0748-72-1271
E-mail: arimoto [at]takii.co.jp
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
教授 河鰭 実之(かわばた さねゆき)
TEL:070-6442-9499
E-mail: skawabata [at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp
※上記の[at]は@に置き換えてください。