発表者
郭 威(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 准教授)
Wenli Zhang (北京工業大学 情報学部 教授)
高田 大輔 (福島大学農学群食農学類 准教授)

発表のポイント

  • ドローンにより撮影・測量した果樹園の三次元情報を元に比較的密度の粗い点群からでも樹木の枝構造を解析できる手法を提案し、附属生態調和農学機構内の果樹園で、モモ、カキ、クリ、ウメの樹に対して検証を行いました。
  • 当手法を利用することで、今まで困難であった樹の枝構造の調査が低コストで行えることになりました。この成果は国内外の果樹産業におけるスマート農業の推進にも大いに活用出来ると期待されています。
  • 開発した手法を「EasySkeleton」と名付け、ソフトウェア化し、だれもがアクセスできるようにオンライン公開しました。

発表概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の郭威准教授らの研究チームは、市販されているRGBカメラ付のドローンによる撮影・測量した果樹園の三次元情報を元に比較的密度の粗い点群からでも樹木の枝構造を解析できる手法を提案しました。
果樹の枝の分布は、光の利用効率を左右し、その構造の優劣により、最終的には果実の品質や収量にも影響を及ぼします。そのため、枝構造情報を定性的・定量的に取得・分析することは、科学的な果樹園管理を行う上で極めて重要です。しかし、管理者の感覚に頼った従来の枝構造の把握は、普遍的でなく、汎用化しにくく、精度の保証も難しいです。昨今では、樹木構造の点群を、空中RGBカメラを搭載したドローン等を用いて低コストで取得することも可能になりつつあります。しかしながら、汎用機で得られた点群データは、乱雑で粗い場合も多く、必要な骨格情報を正確に得ることは難しく、現場への応用が難しく、取得データの精度向上は喫緊の課題となっています。
今回、提案した手法は、ドローンによる撮影・測量により生成した点群に基づいて果樹の枝の骨格を抽出するアルゴリズムと、抽出効果を評価する新しい指標を提案するものであるとともに、比較実験を行ってその有効性を検証しています。本手法は、さまざまな種類の樹木の成長状態を効率的に評価する事に有用であり、次世代型の果樹園管理を目指すための3Dデジタル化をアルゴリズムで支援するとともに低コスト化を目指します。 さらに、本手法より作成したソフトウェアとサンプルデータをオンライン公開し、誰でも自分の果樹園に適合した解析が行いやすいようにしています。

発表内容

図1:本手法の流れとソフトウェアEasySkeletonの例 (拡大画像↗)

図2:本手法を利用した果樹のスケルトン抽出例 (拡大画像↗)

図3:本手法と他の手法の比較(拡大画像↗)

 果樹園の科学的管理では、果樹の枝の形態がキャノピーの通気性や光透過性、養分の分布に直接影響し、果実の収量や品質に大きな影響を与えます。果樹農業の自動化が進むと、果樹の枝の形態を表現する必要性が出てきます。点群は一般的に物体の3次元構造を表現するために用いられ、工学的な計測やデジタルモデリングに重要なだけでなく、果樹の点群の3次元スケルトンを取得し、そこから樹高、枝長、枝角などの情報を抽出し、果樹の成長状態解析や枝打ち、枝打ちの支援に利用することが可能です。しかし、現在の高品質な点群データは通常LIDARスキャンで取得されており、コストが高く、果樹園などでの大規模なアプリケーションには適していません。近年のドローン撮影による測量技術の発展に伴い、RGBカメラを搭載したUAVによる点群取得が広く行われるようになりました。しかし、この方法で収集した点群は空間的にまばらで不規則に分布する場合もあり、既存の骨格抽出アルゴリズムではうまく対応できません。そのため、大規模な果樹園の精緻な管理を進める上では、疎なRGB点群データから、枝のスケルトン抽出アルゴリズムを行うことや、使いやすく低コスト化も視野に納めたツールの開発が極めて重要です。
 本研究では、ドローン撮影により収集された疎な樹木の枝のRGB点群データ(図1)に対して、モモ、カキ、クリ、ウメなど一般的な果樹の枝骨格の抽出に成功しました(図2)。これら果樹の枝の点群に対する評価指標FBP、FEP、HDを開発し、インターフェース付きソフトウェアパッケージに統合しました。 本論文で提案するアルゴリズムは、従来のアルゴリズムよりも良好な結果を得ることができました(図3)。本研究の結果、ドローン写真測量法を用いて果樹の枝の形態情報を解析することで、LIDARなどを用いたデータ収集にかかるコストを削減できることが可能となります。我々の方法を用いることで、果樹園などの広い園地での樹木の枝の骨格抽出作業に適しており、さまざまな種類の果樹の成長状態の分析に役立つため、果樹園の科学的管理に一定の実用的価値を持ち、果樹産業へのスマート農業普及への貢献、大規模な果樹園管理を効率的に行う事を可能とします。
 本研究は、JSTAIP加速課題「ビッグデータ駆動型AI農業創出のためのCPS基盤の研究(JPMJCR21U3)」と中国国家自然科学基金会プロジェクト(62276009)の支援を受けて実施されました。

発表雑誌

雑誌名
Drones(2023年1月17日オンライン出版)
論文タイトル
Tree Branch Skeleton Extraction from Drone-Based Photogrammetric Point Cloud
著者
Wenli Zhang*, Xinyu Peng, Guoqiang Cui, Haozhou Wang, Daisuke Takata and Wei Guo *(*責任著者)
DOI番号
https://doi.org/10.3390/drones7020065
論文URL
https://www.mdpi.com/2504-446X/7/2/65

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
准教授 郭 威(カク イ)
〒188-0002 東京都西東京市緑町1-1-1
Tel: 070-6442-9514 (代表)
E-mail:guowei<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。

福島大学農学群食農学類
准教授 高田 大輔
〒960-1296福島県福島市金谷川1番地
Tel: 024-503-4061
E-mail:dtakata<アット>agri.fukushima-u.ac.jp  <アット>を@に変えてください。

用語解説

  • 注1 ドローン写真測量
     果樹園の上空からドローンで画像を連続撮影し、それらの画像から幾何学的な逆問題を解くことによって果樹園の三次元構造を復元し、三次元点群を生成する技術であります。三次元点群より、果樹の形状などを計測することができます。ドローン写真測量はGPSを使用し、事前設定されたルートを自動飛行するため、作業時間も短縮化できます。