バイオマス発電のための未利用材の供給コストを地域全体で最小化する
発表のポイント
- 地域内に複数存在する小規模分散型バイオマス発電所が、地域で発生する未利用材を等分してエネルギー利用する場合において、未利用材の燃料コストの合計を最小化するように供給先を決定しました。
- この手法を全国158の森林計画区の1つに適用し、地域に1基存在する大規模集中型のバイオマス発電所よりも、複数の小規模分散型発電所へ未利用材を供給する方が、未利用材の単位重量あたりの燃料コストが安くなることを示しました。
- 発電コストを含めた電力1kWhあたりの総コストは、分散型が集中型よりも高くなってしまいましたが、発電時に発生する熱の利用が可能な小規模分散型発電が、大規模集中型よりもコスト面で有利になる熱利用の条件を提示しました。
発表内容
背景
2012年7月に施行された再生可能エネルギーによる電力の固定価格買取制度(FIT)において高額な買取価格が設定されたことから、間伐材や林地残材からなる「未利用材」を燃料とするバイオマス発電所の建設・稼働開始が進んでいます。2022年には1,026万m3の「燃料材」がエネルギー利用されるまでに至り、半世紀ぶりに4割の水準を回復した木材自給率の向上に大きく寄与しています。一方で、未利用材は森林から収穫し、発電所へ輸送する必要があることから、燃料供給コストの高止まりが課題となっています。森林資源の持続的な利用を技術的な側面から追究する東京大学森林利用学研究室の研究グループは、必要となる燃料の量が集中型よりも少なくて済む地産地消型の小型木質バイオマスガス化発電に着目し、地域内に複数存在する小規模分散型発電所が、集中型発電所よりも有利になる条件を明らかにしました。
内容
本研究は、6市3町から構成される静岡県富士森林計画区(注1)をモデル地域に設定しました。地域内における民有林の人工林のうち(保安林のような伐採の制限は受けない)普通林およそ32,000 haを対象に、まず枝番(注2)単位で40年から80年に設定された伐期(注3)の間に発生する未利用材の材積を合計し、それを伐期で除したものを年間発生量としました。次にトラック輸送が可能な林道・一般道までの搬出距離と、発電所までの輸送距離を枝番ごとに求め、地形条件別に定めた収穫・輸送コスト計算式にもとづいて未利用材の供給コストを算出しました。最後に未利用材を燃料とする発電所を、地域内で1箇所に集約する場合(集中型)と、各市町に1基ずつ配置する場合(分散型)の2つのケースを想定し、両者の燃料コストと発電コストを推計しました。ここで分散型における未利用材の供給先については、輸送問題として「地域の未利用材が等分」かつ「供給コストの総和が最小」となる発電所への輸送となるように設定しました(図1)。
図1 小規模分散型発電所を各市町に配置した場合の未利用材の輸送先
未利用材の供給コストは、集中型が10,291円/dry-tであったのに対し、分散型は9箇所の発電所の平均で9,766円/dry-tと、集中型よりも安くなりました。しかし、燃料供給コストに発電所の建設・運用にかかる発電コストを加えた総コストは、集中型21.4円/kWh、分散型23.6~25.8円/kWhと、分散型の方が高くなってしまいました。これは、現時点における小型ガス化発電所の発電コストが、集中型で採用される蒸気タービン式よりも高いことによるものですが、一方でガス化方式は、発電時に発生する熱を利用することが可能です。そこで分散型において、その熱を隣接する施設に売却するなどして得られる収益を総コストに加味できるとした場合、発生した熱に対して売却熱の占める割合を意味する売熱率が20~40%を超えれば、分散型が集中型よりも有利になるという結果が示されました(図2)。また、蒸気タービン式よりも稼働率が低いことが課題となっている分散型の小型ガス化発電のコストが集中型を下回る条件として、現在の売熱単価7.79円/kWhにおいて「稼働率90%かつ売熱率50%」が1つの目安となることを示しました(図3)。
図2 売熱率と総コストの関係(実線が分散型、破線が集中型)
図3 分散型の小型ガス化発電のコストが集中型を下回る条件
本研究で構築した手法は、地域に潜在的に存在する未利用材の資源量を推計し、建設するのに適した発電所の大きさを検討するとともに、木質バイオマス発電所の経営にとって最も重要な要素の1つである燃料コストを地域全体で最小化できることから、地域におけるバイオマス利用計画の策定に資するものであると考えられます。また現在、未利用材を燃料とするものとしては大規模な部類に入る5 MWクラスの発電所の燃料不足が目立ちはじめ、代わって地産地消型で、災害などの非常時に地域の電源としての活用も期待できる小型木質バイオマスガス化発電が注目されています。小型ガス化方式は、少ない量のバイオマスで高効率の発電を行うことができ、かつ発電時に発生する熱の利用が可能な点に強みがありますが、日本では熱の用途が限られてしまう点が導入への障壁となっています。本研究は、分散型が集中型に対してコスト面で有利となる熱利用の条件を提示することができたという点において、小型ガス化発電の普及に寄与することも期待できます。
一方、本研究では未利用材の発生量に関しては伐期を通しての平均値で求めていますが、実際にはたとえば間伐のような何らかの作業を行った年しか未利用材は発生せず、日本の場合は人工林の齢級構成の偏りから、毎年の発生量が安定しないことが懸念されます。バイオマス発電所の運転にあたり燃料の安定的な確保は最重要課題であり、たとえば30年間といった一定期間、発電所を安定して稼働させるために必要な未利用材を、安定的に供給可能な伐採計画を提示できるようなモデルの改良に、今後の課題として取り組んでいきたいと考えています。
発表者・研究者等情報
黒田 浩太郎(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 修士課程:研究当時)
金 鉉倍(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 助教)
吉岡 拓如(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 准教授)
発表雑誌
- 雑誌
- Renewable Energy Focus
- 題名
- Forest resource distribution and transport cost optimization-based economic evaluation of gasification and steam-turbine biomass power generation systems
- 著者
- Kotaro Kuroda, Hyun-Bae Kim, and Takuyuki Yoshioka
- DOI
- https://doi.org/10.1016/j.ref.2024.100595
- URL
- https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1755008424000590
研究助成
本研究の一部は、日本学術振興会科研費(課題番号:20K06121)の助成を受けて行われました。
用語解説
- 注1 森林計画区
民有林の場合は全国に158の森林計画区があり、森林法第7条第1項にもとづき、農林水産大臣が都道府県知事の意見を聴き、地勢その他の条件を勘案し、主として流域別に都道府県の区域を分けて定めた区域をいいます。 - 注2 枝番
森林所有者別に設定された森林区画の単位に林班、小班などがあります。樹種や林齢、地形条件が異なると、林班が小班に細分されていきます。枝番は、小班をさらに細分化したものです。 - 注3 伐期
人工林において植林した年から、主伐と称して最終的に収穫する年までの期間のことをいいます。スギやヒノキの人工林の中には、植林時には40年のサイクルを想定したものも多くありましたが、近年は主に採算性を理由に伐期を長くする人工林が増えています。
問い合わせ先
(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻
森林利用学研究室 准教授 吉岡 拓如(よしおか たくゆき)
E-mail: tyoshioka[at]fr.a.u-tokyo.ac.jp
※上記の[at]は@に置き換えてください。