メントールをはじめとする冷感物質による苦味受容体の阻害
発表のポイント
◆メントールをはじめとする複数の冷感物質が、苦味受容体(注1)を直接阻害することを見出しました。
◆ 冷感の強さと苦味受容体の阻害能には明確な相関はなく、「冷感は弱いが苦味阻害効果が強い」 化合物も見つかりました。
◆ 不快な苦味を抑制することにより、食品の呈味改善に寄与することが期待されます。
発表内容
サッカリンやアセスルファムKといった高甘味度甘味料は、甘味を付与しながらカロリーを少なくできる利点から、飲料などの食品に世界中で利用されています。しかし一方でこれらの甘味料を使用すると、後味として不快な苦味が感じられることがあり、それが味の印象を悪くしています。この不快な苦味を改善することを目的とし、特に「苦味阻害」に注目して検討を行いました。苦味を抑える方法は主に2つに分けられます。1つは、他の風味を加えることで苦味の感じ方をやわらげる「苦味マスキング」、もう1つは、苦味を感じる受容体の働きを直接阻害し、苦味そのものを弱める「苦味阻害」です。後者はより根本的で、効果的な手法と考えられています。
本研究では、冷たさを感じさせることで苦味を和らげるとされる「冷感物質」に着目しました。これらの物質が苦味阻害剤として働く可能性について、苦味受容体を用いたアッセイ系により評価しました。その結果、サッカリンやアセスルファムKの苦味に関与する苦味受容体であるTAS2R31およびTAS2R43に対して、冷感物質である(-)-メントール、(+)-メントール、メントンが受容体を直接阻害する活性を持つことを見出しました。
さらに、メントールに似た構造を持つ他の化合物についても検討を進めたところ、モノテルペン骨格に加えて、ヒドロキシ基またはカルボニル基を持つ化合物群が、同様にTAS2R31およびTAS2R43に対する阻害活性を示すことが明らかとなりました(図2)。これにより、「冷感があるかどうか」よりも、「特定の官能基と炭素骨格の組み合わせ」が、苦味受容体の阻害に重要である可能性が示唆されました。
このような構造と活性の関係をもとにして、サッカリンやアセスルファムKの苦味を抑える効果を持つモノテルペノイド化合物を複数、見出すことができました。その中でも、冷感は弱いものの優れた苦味阻害活性を示す(R)-(-)-カルボンは、食品への応用が期待される有望な候補化合物として注目されます。今後は、これらの化合物について実際の効果を確認し、高甘味度甘味料を用いた食品の呈味改善に役立てていくことが期待されます。
なお本研究は、科研費「22H02282、22K19128、23K23549」、(一財)旗影会研究助成、(一財)東洋水産財団学術奨励研究などの支援により実施されました。
論文情報
雑誌名:FEBS Open Bio
題名:Menthol-like cooling compounds, including (R)-(-)-carvone, inhibit the human bitter taste receptors for saccharin and acesulfame K.
著者名:Miyuu Saito and Takumi Misaka* (*:責任著者)
DOI:10.1002/2211-5463.70098
URL:https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2211-5463.70098
発表者・研究者等情報
東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
齋藤 美優 修士課程(当時)
三坂 巧 准教授(責任著者)
用語解説
注1 苦味受容体
口腔内の味細胞に発現し、苦味物質の認識を行っている受容体。ヒトでは全26種の苦味受容体(TAS2R)が存在しており、それぞれに対応する苦味物質が明らかにされている。
問合せ先
東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
准教授 三坂 巧 (みさか たくみ)
Tel:03-5841-8117
E-mail:amisaka[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp
[at] を @ に変換してください。
研究室URL:https://webpark1101.sakura.ne.jp/