デュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルマウスにおける運動機能障害を解明――DBA/2N-mdxマウスの24時間自動行動解析に成功――
発表のポイント
◆マウスの行動解析システムを用いて、デュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)のモデルマウス「DBA/2N-mdxマウス」を24時間連続撮影してその行動を解析した。
◆暗期(活動期)における運動量低下や歩行異常など、人の患者病態に近い表現型を定量的に検出できた。
◆昼夜を通じた非侵襲的な自動解析により、従来の観察方法では見逃されていた臨床的に重要な症状をマウスで捉えることに成功した。
概要
東京大学大学院農学生命科学研究科の研究チームは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のモデルマウス「DBA/2N-mdxマウス」を対象に、24時間連続で自発行動を撮影・解析する新手法を開発しました。これを用いることにより、ヒト患者に特徴的な運動障害を、自然な飼育環境下でマウスにおいても客観的に可視化することに成功しました。
発表内容
DMDは進行性の遺伝性疾患で、患者は歩行障害や筋力低下により日常生活が大きく制限されます。従来の動物実験では、筋力測定や短時間の観察を用いて行動評価が行われてきましたが、これらの方法は「昼間の限られた時間」に偏っており、マウスの活動期である夜間や長時間に及ぶ症状の変化を捉えることは困難でした。
本研究では、マウスの行動を、昼夜を通じて連続撮影し、画像解析によって自動的に定量化するシステムSHIGUSAを導入しました。その結果、DBA/2N-mdxマウスは暗期(活動期)において以下のような異常を示すことが明らかになりました(図1)。
・運動距離の著しい減少
・活動時間の短縮
・歩行速度の低下
・直線歩行の減少
・体幹伸展(歩行時の体の伸び)の縮小
これらは、人のDMD患者が日常生活で経験する疲労や運動障害に対応する表現型であり、従来の実験系では把握できなかった重要な知見です。さらに、病理組織学的解析でも骨格筋の壊死や脂肪浸潤といったヒト病態に類似する変化が確認されました。
特に重要なのは、24時間連続解析により、マウスの暗期(活動的な時間帯)に顕著な運動低下が検出された点です。これは、患者が日常生活や就寝時に感じる疲労や運動障害に対応する可能性が高く、マウスで得られた行動表現型を人へ外挿できる大きな手がかりとなります。

本研究で確立した「昼夜を通じた行動モニタリング+画像解析」というアプローチは、動物福祉に配慮した非侵襲的かつ高再現性の手法であり、今後の新規治療薬の前臨床評価における新しいスタンダードとなることが期待されます。
論文情報
雑誌名:Journal of Pharmacological Sciences
題 名:Uncovering Motor Impairments in Duchenne Muscular Dystrophy: 24-Hour Automated Behavioral Analysis of DBA/2N-mdx Mice
著者名:Misato Kida*, Yui Kobayashi*, Takamasa Numano, Masahiko Yasuda, Seinosuke Sakai, Takashi Minato, Takuya Kishi, Masahiro Fukuda, Keisuke Omori, Taichi Yamamoto#, Takahisa Murata#
* Authors equally contributed. # Correspondence.
URL:https://authors.elsevier.com/sd/article/S1347-8613(25)00097-0
研究助成
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(20H05678)、および科学技術振興機構(JST)A-STEP(JPMJTR22UF)の支援を受けて実施されました。
発表者・研究者等情報
東京大学 大学院農学生命科学研究科
木田 美聖 研究員
小林 唯 研究員
港 高志 研究員
岸 拓也 研究員
福田 将大 研究員
大森 啓介 研究員
村田 幸久 准教授
公益財団法人実中研 トランスレーショナルリサーチ部門
沼野 琢旬 試験事業センター 室長
保田 昌彦 病理解析センター 副センター長
酒井 誠之介 事業開発部 新規事業開発室
山本 大地 副部門長
問合せ先
東京大学 大学院農学生命科学研究科
獣医薬理学研究室/放射線動物科学研究室/食と動物のシステム科学研究室
准教授 村田 幸久(むらた たかひさ)
Tel:03-5841-7247
E-mail:amurata@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp

