当研究科 附属生態調和農学機構の矢守 航 准教授が、2019年 度日本植物学会誌JPR論文賞を受賞しました。

本賞は、ISI Web of Knowledgeの論文被引用データに基づき、2016年にJPR誌に掲載された論文から、最も引用回数の高かった論文として決定されました。

◆受賞対象となった研究論文

Wataru Yamori (2016) Photosynthetic response to fluctuating environments and photoprotective strategies under abiotic stress. Journal of Plant Research 129 (3): 379-395

◆講評

Yamoriの論文は生理生態学分野の総説論文であり、2014年に開催されたJPRシンポジウムを記念して出版された特集(Responses of the photosynthetic systems to spatio-temporal variations in light environments: scaling and eco-devo approaches)に掲載されました。葉の光合成速度の環境応答メカニズムの解明はCO2濃度や光強度、温度、湿度などが制御された条件の下での緻密な実験によって進められ、多くの知見が蓄積されてきています。一方で、野外に生育する植物の光合成に関わる条件は、秒から分、時のスケールで著しく変動しており、特に葉群内の葉の光条件は強度と時間ともに大きな変動を経験します。例えば林床植物の葉はサンフレックを効果的に吸収し利用しなければなりませんが、時に過剰となる強度の光を安全に処理することも必要となります。したがって葉はこれらの変動環境に応じて光合成による炭素固定をするとともに、光合成機能にもたらされるダメージの回避・軽減のための調節機構を発達させています。本総説では、まず自然環境における光合成の環境条件の変動について整理し、次に光強度、CO2濃度、温度、湿度の変動が光合成反応に及ぼす影響を実験結果に基づいて解説しています。最後に変動環境に対する光合成の調節機構における葉形態や葉緑体運動の機能、および、過剰光の熱散逸やCyclic electron transport、water-water cycle、光呼吸などの生理学的な制御機能について最近の知見とともに解説し、変動環境下での光合成反応の解明とその意義について展望を述べています。広範な時間的スケールで変動する環境に生育する植物の光合成反応に関するさらなる解明は、光合成機構の適応の理解の促進と、それに基づいた自然環境下での多様な植物の光合成生産の予測にも関わるテーマであり、本総説はこれまでの理解と将来の研究発展を繋ぐ役割を担う素晴らしい論文です。  

2019年度JPR論文賞についてはこちら

http://bsj.or.jp/jpn/members/information/2019jpr.php

矢守 航 准教授の研究ホームページはこちら

http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/yamori-lab/