別府輝彦名誉教授(応用生命工学専攻元教授)が令和4年度文化勲章を受章しました。
このたび別府輝彦先生が文化勲章を受章されました。先生は我が国の応用微生物学、バイオテクノロジーの基礎を築かれ、長年にわたり、学界・産業界、科学行政に多大な貢献をされてきました。ご受章を心からお慶び申し上げます。
先生は、基礎及び応用微生物学、発酵学、バイオテクノロジーの教育・研究に携わり数多くの業績を挙げられました。代表的な成果を略記すると、青カビによる新しいアロイソクエン酸発酵の発見、大腸菌の致死性タンパク質コリシンの作用機作の解明、大腸菌外膜を越えるタンパク質分泌機構の解明、放線菌の二次代謝と形態分化の分子制御機構の解明、我が国で最も初期の遺伝子組換え技術体系の確立を伴うウシ及びケカビ由来の凝乳酵素遺伝子のクローン化と微生物宿主での酵素生産、新規抗真菌抗生物質の広範な探索により発見した化合物の新しい機能の解明、新奇な微生物間共生系の発見とその共生機構の解析など、その業績は多岐にわたります。
それらの中で、チーズ製造に用いられるウシ第四胃由来のキモシンを大腸菌を宿主とする遺伝子組換え技術により活性型で造りだした成果は、食品製造への同技術の世界初の適用へ途を開きました。また、ストレプトマイシンの工業生産に用いられる放線菌の分子遺伝学的解析から低分子信号物質を介する抗生物質生産性などの微生物間制御に関する新しいモデルを導いた業績と、探索で発見した抗真菌抗生物質トリコスタチンの真核細胞におけるヒストン脱アセチル化阻害作用から出発して抗がん剤開発の新しい方向性を示した業績は、いずれも極めて独創性が高く、応用上の意義も大きいものです。また観察そのものが困難な微生物同士の共生系の発見は、今日の新しい微生物生態学への先駆けとなりました。これら一連の研究成果は500編を越える原著論文・著書として発表されており、微生物学の基礎及び応用における先駆的かつ独創的業績として我が国のみならず世界で高く評価されています。
先生は今も大変お元気であり、常に最新の研究動向に注意を払われるとともに、後進の育成に熱意を持ち続けておられます。本年8月に開催された、門下生および門下生が主宰する研究室のメンバーによる研究発表会「醗酵学フォーラム」においても、先生は鋭い切り口で個々の研究に関してご意見されるとともに、自らも地球環境と微生物の関わりに関する大変示唆に富んだご講演をしてくださいました。先生のますますのご活躍とご健勝をお祈り申し上げます。
(大学院農学生命科学研究科・農学部 大西康夫)